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術後リハビリにおけるEMS活用法~筋萎縮を防ぐ最新アプローチ~

はじめに

外科手術後の患者において、安静やベッド上での生活が長引くことで「筋萎縮」が急速に進行することは広く知られています。特に高齢者や整形外科手術、心臓血管外科手術後の患者では、廃用性筋萎縮が術後のリハビリの妨げとなり、ADLの低下や入院期間の延長につながります。
この課題に対し、近年注目されているのがEMS(Electrical Muscle Stimulation:電気筋肉刺激)の活用です。本コラムでは、「術後リハビリ」「EMS」をキーワードに、エビデンスに基づいた効果と実践方法について解説します。

術後における筋萎縮の問題

術後の筋萎縮は、発症までの期間が非常に短いことが特徴です。文献によると、ベッド上安静が1週間続くだけで大腿四頭筋は約10〜15%の筋量を失うことが報告されています。

こうした筋萎縮は歩行機能や立ち上がり動作の低下を招き、退院後のQOLや再入院リスクに直結します。従来は「早期離床」「自発的な運動トレーニング」が第一選択ですが、痛みや循環動態の不安定さから十分な運動量を確保できない症例も少なくありません。

EMSとは?

EMSは皮膚表面に装着した電極から微弱な電気を流し、筋肉を収縮させることでトレーニング効果を得る方法です。随意運動が難しい患者においても、強制的に筋収縮を生じさせることができる点が大きな特徴です。リハビリ分野では、廃用性萎縮の予防、循環改善、筋力維持などを目的として使用されてきました。

EMSの術後リハビリにおけるエビデンス

1. 整形外科領域

人工膝関節置換術(TKA)後の患者を対象にした研究では、EMSを併用することで大腿四頭筋の筋力低下を有意に抑制できたことが報告されています。さらに、歩行速度や膝伸展筋力の回復も通常リハビリ単独群に比べて早い傾向が示されています。

2. 心臓外科領域

心臓手術後は、心機能への配慮から運動強度に制限がかかりやすいですが、EMSは循環動態に過剰な負担をかけずに下肢筋の収縮を誘発できる手段として注目されています。研究によると、EMSは下肢血流改善や深部静脈血栓症(DVT)の予防にも有効とされています。

3. ICU・重症患者領域

人工呼吸管理が必要な重症患者では、ICU-AW(集中治療後筋力低下症)のリスクが高いことが知られています。EMSを導入することで、筋量減少の抑制や筋力低下の予防につながることが複数のランダム化比較試験(RCT)で示されています。

EMS活用の実践方法

1. 適応

・術後早期で自発運動が困難な患者
・疼痛や循環動態不安定で十分な運動ができない症例
・長期安静が予想される症例(整形外科術後、心臓外科術後、ICU患者など)

2. 使用部位

・下肢大筋群(大腿四頭筋、下腿三頭筋など)
・術後の制限部位を避け、健側から開始することも可能です。

3. 強度・頻度

EMSは「筋収縮を視認できるレベル」を目安に設定します。
・周波数:20〜50Hz
・収縮時間:5〜10秒
・休止時間:5〜10秒
・実施頻度:1日20〜30分、1〜2回程度

4. 安全性の注意点

・心臓ペースメーカーや植込み型除細動器(ICD)のある患者には禁忌
・創部や皮膚損傷部位への電極貼付は避ける
・循環動態に変化がある場合はモニタリング下で使用

EMSと従来のリハビリの組み合わせ

EMSは従来のリハビリを「置き換える」ものではなく、補完する役割を担います。術後早期はEMSで筋活動を確保しつつ、疼痛や循環が安定してきた段階で随意運動や歩行訓練へ移行していくのが理想的です。
特に高齢患者やサルコペニアを背景に持つ症例では、EMSの導入が筋量維持のブリッジとして有効である可能性が高いと考えられます。

今後の展望

近年は、従来のパッド型電極だけでなく、ベルト型電極を用いたEMS(B-SES)の開発も進んでいます。これにより、大腿や下肢全周に均一な刺激を与えることができ、より効率的な筋収縮誘発が可能となります。今後は、術後リハビリにおけるB-SESの有用性を検証する臨床研究がさらに期待されます。

まとめ

・術後の早期筋萎縮はADL低下や入院期間延長の大きな要因となります。
・EMSは随意運動が困難な術後患者において、筋量維持や循環改善に有効です。
・整形外科・心臓外科・ICUなど多様な領域でエビデンスが蓄積しています。
・EMSは従来の術後リハビリを補完するツールとして、安全に使用することが重要です。

参考文献

・Dirks ML, Wall BT, van de Valk B, et al. Neuromuscular electrical stimulation prevents muscle disuse atrophy during leg immobilization in humans. Acta Physiol (Oxf). 2014;210(3):628-641.
https://doi.org/10.1111/apha.12200

・Stevens-Lapsley JE, Balter JE, Wolfe P, Eckhoff DG, Kohrt WM. Early neuromuscular electrical stimulation to improve quadriceps muscle strength after total knee arthroplasty: a randomized controlled trial. Physical Therapy, 2012;92(2):210-226.
https://doi.org/10.2522/ptj.20110124

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