膝手術後の患者さんにとって、ただ術後を乗り切るだけでなく「社会復帰」、つまり仕事復帰・日常生活復帰をいかに早期に、安全に実現できるかは、術後リハビリテーション(以下「リハビリ」)プログラム設計における重大なテーマです。特に「膝」の術後には、筋力低下・可動域制限・歩行能力の低下・疼痛・心理的抑制などが複雑に絡み合い、運動介入が遅れると生活機能や就労復帰・QOL低下に直結します。
そこで本コラムでは、医療従事者を対象に、膝術後患者の早期社会復帰を支援する運動プログラムを3つの視点で整理します。
①膝術後患者を巡る課題と運動介入の意義、
②早期運動プログラムの構成と具体的内容、
③現場で運用するためのポイントと留意点。
引用論文に基づいたエビデンスも交えながら解説します。
膝関節に対して手術(例:【人工膝関節置換術(TKA)】【膝関節鏡視下手術】など)を施した患者では、術後早期に次のような課題を抱えやすくなります。
・筋力低下・筋萎縮:特に大腿四頭筋など膝まわり筋群の活動低下・萎縮が術後早期から認められ、膝機能回復や歩行能力に影響を及ぼします。
・関節可動域制限:膝の屈曲・伸展制限が残存すると、階段昇降・日常動作・職場復帰に支障となることがあります。
・歩行能力・バランス機能の低下:膝術後は歩行速度や歩行距離、立ち上がり能力が低下するリスクが高く、生活動線や社会参加に影響します。
・痛み・腫れ・機能抑制:術後疼痛や膝の腫れ・出血合併症が運動開始を遅らせることがあります。
・心理的・社会的要因:術後の生活制限・出勤停止・家事制限が、復帰意欲低下や自己効力感の低下を招き、早期社会復帰の障壁となります。
例として、就労年齢のTKA患者で「仕事復帰までに長期間を要した」とする報告もあります。
以上をふまえると、膝手術後患者に対する「運動療法」の早期介入こそが、機能回復・社会復帰を実現するうえで重要な柱です。
例えば、術後24時間以内にリハビリを開始した研究では、早期垂直化・歩行開始が可能だったと報じられています。(※1)
本章では、膝術後患者が“術後早期から安全に運動を始め、社会復帰を目指す”ための運動プログラムを「段階構成+運動内容+進捗目安」という形で整理します。
基本的に次の4段階を設計とすると現場運用しやすいです。
・ステージ1:受動/準受動運動+姿勢変換(術後直後~術後1~2日)
安静制限・腫れ・疼痛が強い時期には、受動的な関節運動(膝屈伸軽度)・筋力維持目的の筋電気刺激(NMES)・定期的な姿勢変換・脚上げ静的エクササイズなどを適用します。
・ステージ2:座位/起立支援運動+早期荷重開始(術後2~7日程度)
腫れ・痛み・出血のコントロールが進めば、ベッド端座位・起立支援・軽荷重歩行(歩行補助具使用)などを導入します。
・ステージ3:能動運動+筋力強化+機能的動作訓練(術後1~4週)
大腿四頭筋・ハムストリングス・臀筋など下肢筋群のレジスタンス運動、膝可動域拡大訓練、バランス訓練などを進めます。(※2)
・ステージ4:社会/職場復帰準備運動+維持フェーズ(術後4週以降)
通勤動作・立ち仕事・階段昇降・長時間歩行を想定した運動プログラムを設計します。
現場でこの運動プログラムを安定的に運用し、早期社会復帰につなげるためには、多職種連携・個別化・段階的負荷設計・進捗モニタリングが重要です。
膝術後患者の早期社会復帰を支援するためには、術後早期からの運動介入が極めて重要です。
1. Lisi C, et al. “Early rehabilitation after elective total knee arthroplasty.” PMC. 2017.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6357664/
2. Bade MJ, et al. “Early High-Intensity Rehabilitation Following Total Knee Arthroplasty.” J Orthop Sports Phys Ther. 2011.
https://www.jospt.org/doi/10.2519/jospt.2011.3734
3. Drużbicki M, et al. “Return to Work after Primary Total Knee Arthroplasty.” J Clin Med. 2024.
https://doi.org/10.3390/jcm13071902
掲載日:2026/2/2

