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変形性膝関節症の運動療法を再考する―筋力低下と活動量低下へのアプローチ

1.変形性膝関節症において運動療法が重要視される理由

変形性膝関節症は、高齢化に伴い患者数が増加している代表的な運動器疾患です。疼痛や可動域制限、歩行能力の低下を引き起こし、日常生活活動(ADL)やQOLの低下の大きな要因となります。
特に近年では、単に「膝の痛みを和らげる」だけではなく、“活動性を維持しながら生活機能を保つ”ことが重要視されています。
その中で中心的役割を担うのが「運動療法」です。
従来、変形性膝関節症では「膝を使いすぎると悪化する」というイメージを持つ患者も少なくありませんでした。しかし現在では、適切な運動療法は疼痛軽減や身体機能の改善に有効であることが、多くの研究で示されています(※1)。
また、運動療法は薬物療法とは異なり、筋力維持や転倒予防、生活習慣病対策など、多面的な効果が期待できる点も特徴です。
そのため、国内外のガイドラインでも、変形性膝関節症に対する保存療法の第一選択として運動療法が推奨されています。

2.なぜ変形性膝関節症で筋力低下が問題になるのか

変形性膝関節症では、疼痛によって活動量が低下しやすくなります。
活動量低下が続くと、大腿四頭筋を中心とした下肢筋力の低下が進行し、膝関節への負担増加につながります。
つまり、
「痛み → 動かない → 筋力低下 → さらに痛む」
という悪循環が形成されるのです。
特に大腿四頭筋の筋力低下は、膝関節の衝撃吸収能力の低下や歩行不安定性と関連すると考えられています。
また、近年では変形性膝関節症患者において、単なる筋力低下だけでなく、身体活動量全体の低下やフレイルの進行との関連も注目されています。
そのため、現在の運動療法では「筋トレを行う」だけではなく、“生活の中で身体活動をどう維持するか”という視点が重要になっています。

3.最新の運動療法で注目されているポイント

変形性膝関節症に対する運動療法は、以前よりも「患者個別性」を重視する方向へ進化しています。

筋力トレーニング中心から“包括的介入”へ

以前は、大腿四頭筋トレーニングが中心でした。
もちろん現在でも下肢筋力強化は重要ですが、近年では以下のような多面的介入が推奨されています。
・有酸素運動
・バランストレーニング
・柔軟性改善
・歩行練習
・身体活動量向上支援
・患者教育
つまり、「筋力だけを鍛える」のではなく、“生活機能全体を改善する”視点が重要になっています。

痛みがあっても“適切に動く”ことが重要

かつては「痛みがあるなら安静」という考え方も一般的でした。
しかし現在では、過度な安静は筋力低下や活動量低下を招くため、むしろ長期的な悪化につながる可能性があると考えられています。
もちろん強い炎症や急性増悪時には注意が必要ですが、多くの場合は「安全な範囲で動き続けること」が推奨されます。

患者指導では、
・“完全に痛みゼロ”を目指しすぎない
・少し動ける範囲を維持する
・活動を極端に減らさない
といった説明が重要です。

4.変形性膝関節症に対する最新エビデンス

近年のシステマティックレビューでは、変形性膝関節症に対する運動療法が、疼痛軽減および身体機能の改善に有効であることが報告されています(※1)。
また、特定の運動だけが突出して優れているというより、“継続できる運動を実施すること”が重要とされています。

有酸素運動の重要性

ウォーキングや自転車運動などの有酸素運動は、疼痛軽減だけでなく、全身持久力向上や体重管理にも有効です。
特に肥満を伴う変形性膝関節症では、体重減少によって膝関節への負荷軽減が期待できます。

神経筋トレーニングへの注目

近年では、単純な筋力強化だけでなく、「神経筋トレーニング(neuromuscular exercise)」も注目されています。

これは、
・関節位置感覚
・バランス能力
・動作制御
・協調性
などを改善することを目的とした運動です。

研究では、神経筋トレーニングが疼痛や身体機能の改善に寄与する可能性が示されています(※2)。

特に、
・階段昇降で不安定
・歩行時にふらつきがある
・動作時の恐怖感が強い
といった患者では重要な視点となります。

5.医療従事者に求められる“継続支援”

変形性膝関節症の運動療法では、「何をやるか」以上に、「どう継続するか」が重要です。

実際には、
・痛みへの不安
・モチベーション低下
・自己流運動による悪化経験
・忙しさ
などから、中断してしまう患者も少なくありません。

そのため、医療従事者には“継続できる環境づくり”が求められます。

小さな成功体験を積み重ねる

例えば、
・「毎日5分歩けた」
・「階段を使えた」
・「痛みが少し軽くなった」
など、小さな変化を共有することは重要です。

運動療法では、“頑張りすぎない成功体験”が継続につながります。

「できない」より「できる」に注目する

患者は「以前より動けなくなった」と感じやすい一方で、“今できていること”には気づきにくいことがあります。

そのため、
・痛みがあっても外出できている
・杖歩行で活動の維持ができている
・家事を継続できている
など、生活機能の維持を評価する視点が重要です。

6.これからの変形性膝関節症の運動療法

今後の変形性膝関節症に対する運動療法では、“画一的な筋トレ”から、“患者ごとの生活に合わせた介入”へとさらに進化していくと考えられます。

重要なのは、
・痛みだけを見るのではなく生活機能を見る
・筋力だけでなく活動量全体を考える
・「運動を処方する」だけで終わらない
・患者自身が続けられる形を一緒に考える
という視点です。

変形性膝関節症は、加齢社会において今後さらに増加が予想される疾患です。
だからこそ、医療従事者には「痛みを減らす」だけではなく、“その人らしい生活を維持する支援”が求められています。
運動療法は、その中心となる重要なアプローチといえるでしょう。

参考文献

(※1)Exercise for osteoarthritis of the knee: a Cochrane systematic review, Marlene Fransen, et al.
British Journal of Sports Medicine, 2015 Dec;49(24):1554-7.
https://doi.org/10.1136/bjsports-2015-095424

(※2)Neuromuscular exercise as treatment of degenerative knee disease, Eva Ageberg, Ewa M Roos.
Exercise and Sport Sciences Reviews, 2015 Jan;43(1):14-22.
https://doi.org/10.1249/JES.0000000000000030

掲載日:2026/6/8

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