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整形外科疾患の痛みは動かした方がよい?|エビデンスから考える「痛み」と「運動」の上手な付き合い方

はじめに

整形外科疾患の患者から、「痛みがあるので動かさない方がよいのでしょうか」「運動すると悪化しませんか」といった相談を受ける機会は少なくないと思います。
かつては、痛みがある部位は安静にするという考え方が主流でした。しかし近年では、過度な安静が身体機能の低下や慢性疼痛の一因となることが明らかになり、適切な運動を継続することの重要性が広く認識されています。
もちろん、すべての痛みに対して積極的な運動が推奨されるわけではありません。しかし多くの整形外科疾患においては、「痛みがあるから動かさない」のではなく、「痛みと付き合いながら適切に動く」という考え方がリハビリの中心となっています。
本コラムでは、整形外科疾患における痛みの捉え方を整理しながら、運動療法が果たす役割や臨床現場で意識したいポイントについて、エビデンスを踏まえて紹介します。

痛みは必ずしも組織損傷の大きさを反映しない

整形外科領域では、「痛み=組織損傷」と考えられがちです。
確かに骨折や靱帯損傷、炎症の急性期では、組織損傷が痛みの主な原因となります。
しかし慢性化した整形外科疾患では、痛みの程度と画像所見が一致しないことも少なくありません。
例えば変形性膝関節症では、画像上で高度な変形を認めても痛みが少ない患者がいる一方で、軽度の変形にもかかわらず強い痛みを訴える患者もいます。
近年では、痛みは単に末梢組織の異常だけでなく、中枢神経系による痛みの増幅や心理社会的要因の影響を受けることが知られています。
そのため医療従事者には、画像所見だけではなく、
 • 身体機能
 • 活動量
 • 心理状態
 • 社会参加状況
といった多面的な評価が求められます。

安静のしすぎが新たな問題を生む

急性外傷や術後早期などでは安静が必要な時期があります。
しかし過度な安静が長期間続くと、さまざまな問題が生じます。
代表的なものとして、
 • 筋力低下
 • 関節可動域制限
 • 心肺機能低下
 • バランス能力低下
 • 疼痛過敏化
が挙げられます。
特に高齢者では数日間の活動量低下でも身体機能が大きく低下することがあります。
また、「動くと痛いから動かない」という経験が繰り返されることで、患者は身体活動そのものに不安を抱くようになります。
この状態は恐怖回避行動(Fear Avoidance)と呼ばれ、慢性疼痛の重要な要因の一つとして知られています。
つまり、痛みを避けるための安静が、結果としてさらなる機能低下や痛みの慢性化を招く可能性があるのです。

整形外科疾患において運動療法が果たす役割

現在、多くの整形外科疾患ガイドラインにおいて運動療法は重要な治療選択肢と位置づけられています。
運動療法の目的は単なる筋力強化ではありません。
 • 疼痛軽減
 • 身体機能改善
 • ADLの向上
 • 転倒予防
 • QOLの向上
など多面的な効果が期待されています。
例えば変形性膝関節症に対して行われたシステマティックレビューでは、運動療法によって痛みと身体機能の改善が認められたことが報告されています(※1)。
また、腰痛に対しても運動療法は有効性が示されており、慢性腰痛患者では身体活動を維持することが推奨されています(※2)。
重要なのは、運動そのものが治療になるという視点です。
疼痛部位だけに注目するのではなく、全身の身体活動量を高めることが機能改善につながると考えられています。

「痛みがある=運動中止」ではない

リハビリの現場では、「痛みが少しでも出たら運動を止めるべきか」という疑問がよく生じます。
しかし近年では、一定範囲内の痛みを伴う運動は必ずしも有害ではないと考えられています。
特に慢性整形外科疾患では、
 • 運動中に軽度の痛みが生じる
 • 運動終了後に症状が落ち着く
 • 翌日に強い悪化がない
という条件であれば、継続が推奨されることがあります。
一方で、
 • 安静時痛の急激な増加
 • 夜間痛の増悪
 • 腫脹や炎症の悪化
 • 神経症状の出現
などがみられる場合は再評価が必要です。
医療従事者には、痛みの有無だけで判断するのではなく、痛みの質や経過を評価する能力が求められます。

痛みを軽減する運動のメカニズム

なぜ運動によって痛みが改善するのでしょうか。
その背景には複数の生理学的メカニズムがあります。
まず、運動によって筋力や関節支持性が向上します。
これにより関節への負担が軽減され、痛みの原因となる機械的ストレスが減少します。
さらに運動は血流を改善し、炎症性物質の除去や組織修復を促進します。
加えて近年注目されているのが、運動誘発性鎮痛(Exercise-Induced Hypoalgesia)です。
運動によってエンドルフィンなどの内因性鎮痛システムが活性化され、一時的に痛み感受性が低下することが知られています。
つまり運動は筋骨格系だけでなく、神経系にも作用しながら痛みを軽減しているのです。

リハビリで重要なのは患者教育

運動療法の効果を最大限に引き出すためには、患者教育が不可欠です。
患者の中には、
「痛みがあるから関節が壊れている」
「動くとさらに悪くなる」
と考えている人も少なくありません。
しかし、そのような認識が活動量低下につながり、結果として身体機能の悪化を招くことがあります。
そのためリハビリでは、
 • 痛みの仕組みを説明する
 • 運動の目的を共有する
 • 活動量を可視化する
 • 適切な目標設定を行う
といった取り組みが重要です。
単に運動を指導するだけではなく、患者自身が痛みと向き合えるよう支援することが求められます。

高齢化社会でさらに重要になる運動習慣

厚生労働省は健康寿命延伸の観点から身体活動の重要性を繰り返し発信しています。
高齢化が進む日本では、変形性関節症や脊柱疾患などの整形外科疾患患者が今後さらに増加すると予想されます。
そのなかで医療従事者には、単に痛みを評価するだけでなく、患者が継続して運動できる環境を支援する役割が求められています。
痛みの改善だけをゴールにするのではなく、
 • 歩けるようになる
 • 趣味を続けられる
 • 外出できる
 • 社会参加できる
といった生活機能の向上を目指すことが重要です。

まとめ

整形外科疾患における痛みと運動は、対立するものではありません。
近年の研究では、多くの整形外科疾患において適切な運動療法が痛みの軽減や身体機能改善に有効であることが示されています。
重要なのは、「痛みがあるから動かない」のではなく、「痛みを適切に評価しながら安全に運動する」という視点です。
リハビリの現場では、身体機能への介入だけでなく、患者教育や行動変容支援も重要な役割を担います。痛みと運動の正しい関係を理解し、患者一人ひとりの生活機能向上につなげていくことが、これからの整形外科リハビリテーションに求められているといえるでしょう。

参考文献

(※1)Exercise for osteoarthritis of the knee: a Cochrane systematic review, Marlene Fransen, et al.
British Journal of Sports Medicine. 2015;49(24):1554-1557.
https://doi.org/10.1136/bjsports-2015-095424

(※2)Exercise therapy for chronic low back pain, Jill A Hayden, et al.
Cochrane Database of Systematic Reviews. 2021;9(9):CD009790.
https://doi.org/10.1002/14651858.CD009790.pub2

掲載日:2026/8/26

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