スポーツ現場や整形外科領域のリハビリテーションでは、靭帯損傷や腱損傷への対応が日常的に求められます。
しかし実際には、「画像上は治癒しているのに競技復帰後に再受傷する」「痛みが軽減してもパフォーマンスが戻らない」といったケースも少なくありません。
近年、スポーツ外傷に対する考え方は大きく変化しています。以前は損傷組織の修復そのものが重視されていましたが、現在では組織治癒に加え、「機能回復」や「再受傷予防」を見据えたリハビリが重要視されています。
本コラムでは、スポーツ外傷の中でも頻度の高い靭帯損傷と腱損傷に焦点を当て、診断の考え方とリハビリのポイントについて整理して紹介します。
スポーツ外傷の診療では、正確な診断がリハビリの方向性を決定するといっても過言ではありません。
例えば同じ膝関節痛であっても、
・前十字靭帯(ACL)損傷
・内側側副靭帯(MCL)損傷
・膝蓋腱障害
・半月板損傷
では治療戦略が大きく異なります。
そのため診断では、
・受傷機転
・疼痛部位
・腫脹の有無
・不安定性
・関節可動域制限
・競技特性
を総合的に評価する必要があります。
また近年はMRIや超音波検査の精度向上により組織損傷の可視化が進んでいますが、画像所見のみで競技復帰の可否を判断できるわけではありません。
リハビリにおいては、画像評価と機能評価の両方を組み合わせる視点が重要です。
スポーツ外傷の代表例といえるのがACL損傷です。
サッカー、バスケットボール、ハンドボールなどの方向転換やジャンプ着地動作で発生しやすく、若年アスリートに多くみられます。
ACL損傷では、
・膝崩れ感
・腫脹
・関節不安定性
・パフォーマンス低下
が生じます。
ACL損傷後のリハビリでは筋力回復だけでは不十分です。
近年の研究では、競技復帰時に十分な筋力や神経筋コントロールが回復していない選手ほど再受傷リスクが高いことが報告されています(※1)。
そのため、
・大腿四頭筋トレーニング
・ハムストリングス強化
・バランストレーニング
・ジャンプ動作練習
・アジリティトレーニング
を段階的に実施する必要があります。
重要なのは「膝が曲がるようになった」「筋力が戻った」という評価だけではなく、競技特有の動作まで評価することです。
足関節捻挫は最も頻度の高いスポーツ外傷の一つです。
一見軽症にみえることもありますが、適切なリハビリが行われない場合、慢性足関節不安定症へ移行する可能性があります。
急性期には疼痛や腫脹管理が中心になりますが、その後は機能回復を重視します。
特に重要なのが、
・足関節可動域改善
・固有感覚トレーニング
・片脚立位練習
・着地動作練習
です。
足関節靭帯損傷後は、筋力よりも神経筋制御機能の低下が残存しやすいため、運動療法では再受傷予防を意識した介入が求められます。
従来、腱障害は「腱炎」として説明されることが多くありました。
しかし現在では、多くの慢性腱障害は単純な炎症ではなく、腱組織の変性を伴う病態であることが知られています。
そのため、「安静にして痛みが引けば治る」という考え方では十分とはいえません。
代表例として、
・アキレス腱障害
・膝蓋腱障害
・肩腱板障害
などがあります。
ランナーやジャンプ競技選手で多くみられる疾患です。
特徴として、
・運動開始時の痛み
・朝のこわばり
・運動後の疼痛増悪
などがあります。
アキレス腱障害では、段階的な荷重負荷が重要です。
特にエキセントリックトレーニング(遠心性収縮を利用した運動療法)は、多くの研究で有効性が示されています(※2)。
ただし近年は、
・アイソメトリック運動
・ヘビースローレジスタンストレーニング
なども活用されており、患者の状態に応じた負荷設定が求められます。
バレーボールやバスケットボールなどのジャンプ系スポーツで発生しやすい障害です。
特徴は、
・ジャンプ時痛
・着地時痛
・スクワット時痛
などです。
膝蓋腱障害では、
・大腿四頭筋の負荷管理
・股関節機能改善
・着地動作修正
・ジャンプ量の調整
が重要になります。
腱組織は適切な機械的刺激によって適応するため、過度な安静よりも計画的な負荷管理が推奨されています。
靭帯でも腱でも共通して重要なのは負荷管理です。
早期復帰を焦るあまり負荷を上げすぎると再受傷につながります。
一方で過度な安静は、
・筋萎縮
・神経筋機能低下
・競技パフォーマンス低下
を招きます。
近年のスポーツリハビリでは、
「組織治癒に合わせながら適切な負荷を与える」
という考え方が主流になっています。
そのためリハビリでは、
・疼痛評価
・筋力評価
・機能テスト
・競技動作評価
を継続的に実施しながら運動療法を調整することが重要です。
スポーツ外傷後の競技復帰では、
「痛みがない」 「MRIで異常が少ない」
だけでは不十分です。
実際には、
・筋力左右差
・神経筋制御
・敏捷性
・持久力
・心理的準備状態
なども影響します。
近年はReturn to Sport(RTS)の概念が普及し、競技復帰を単なる医学的治癒ではなく、競技パフォーマンスまで含めて評価する考え方が広がっています。
スポーツ選手にとって本当のゴールは「復帰」ではなく、「再び競技で力を発揮すること」にあるためです。
厚生労働省は運動器機能の維持や身体活動の重要性を示しており、スポーツ現場においても運動機能の適切な管理が求められています。
・早期復帰へのプレッシャー
・指導者との認識差
・再受傷予防の不足
などの課題も存在しています。
今後は単なる機能回復だけではなく、スポーツ動作分析や競技特性を踏まえたリハビリがさらに重要になると考えられます。
スポーツ外傷で多くみられる靭帯損傷や腱損傷では、正確な診断と段階的なリハビリが重要です。
特に近年は、組織の治癒だけではなく、機能回復や再受傷予防、競技復帰後のパフォーマンス維持まで含めた包括的な視点が求められています。
リハビリの目的は「ケガを治すこと」ではありません。
選手が再び安全にスポーツへ取り組み、長期的な競技活動を続けられる環境を整えることこそが、運動療法に携わる医療従事者に求められる役割ではないでしょうか。
(※1)Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study, Hege Grindem, et al.
British Journal of Sports Medicine.2016;50(13):804-808.
https://doi.org/10.1136/bjsports-2016-096031
(※2)Heavy-load eccentric calf muscle training for the treatment of chronic Achilles tendinosis, H Alfredson, et al.
American Journal of Sports Medicine.1998;26(3):360-366.
https://doi.org/10.1177/03635465980260030301
掲載日:2026/9/9

