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椎間板ヘルニアとは?
部位別にみる症状と治療法の選択肢

椎間板ヘルニアは、日常診療において頻繁に遭遇する整形外科的疾患の一つです。発症部位や症状、重症度によって治療法は異なり、患者一人ひとりに応じたアプローチが求められます。本コラムでは、椎間板ヘルニアの基本的な病態から、頚椎、胸椎、腰椎といった部位別の症状と治療について、エビデンスに基づいて整理します。

椎間板ヘルニアとは

椎間板ヘルニアは、椎骨と椎骨の間に存在する椎間板の髄核が線維輪を突き破り、脊柱管内に逸脱することで、神経根や脊髄を圧迫し、さまざまな神経症状を引き起こす疾患です。
発症には加齢や外傷、遺伝的要因、喫煙や肥満といった生活習慣などが関連しており、特に腰椎および頚椎に好発します。

部位別の症状

1. 頚椎椎間板ヘルニア(Cervical Disc Herniation)

頚椎に発症した椎間板ヘルニアでは、頚部痛、肩甲骨周囲の痛み、上肢のしびれや脱力などの症状が出現します。特にC5〜C7の間での発症が多く、神経根型と脊髄型に分類されます。
脊髄型では、歩行障害や巧緻運動障害といった脊髄症状が出現することもあります。脊髄症状の存在は早期の手術適応を検討する要因となります。

2. 胸椎椎間板ヘルニア(Thoracic Disc Herniation)

胸椎部の椎間板ヘルニアは比較的稀ですが、発症すると重篤な神経症状を呈することがあります。感覚障害、歩行困難、膀胱直腸障害などを伴う脊髄症状が中心で、診断が遅れることも少なくありません。
MRIによる画像診断が有効であり、保存療法に反応しない場合には手術が検討されます。

3. 腰椎椎間板ヘルニア(Lumbar Disc Herniation)

腰椎椎間板ヘルニアは最も頻度が高く、特にL4/L5、L5/S1のレベルに多く見られます。典型的な症状は、腰痛、下肢の放散痛(坐骨神経痛)、感覚異常、筋力低下などで、場合によっては排尿・排便障害を伴う馬尾症候群に進行することもあります。
自然軽快する例も多く、保存療法が基本となりますが、重症例では手術適応となります。

椎間板ヘルニアの治療:保存療法と手術療法

保存療法
保存療法は、発症初期の多くの患者において第一選択とされます。代表的な方法には以下があります。

・薬物療法:NSAIDsやプレガバリンなどの鎮痛薬、筋弛緩薬が使用されます。
・理学療法:ストレッチや筋力強化、温熱療法などによって症状緩和を図ります。
・神経ブロック:神経根ブロックや硬膜外ブロックが適応となることがあります。

近年では、保存療法によって6週間から3ヶ月以内に症状改善が得られることが多いとされており、急性期の手術は避ける傾向にあります。

手術療法
保存療法で効果が不十分な場合や、神経症状が進行している場合、あるいは馬尾症候群のような緊急性の高い症例では手術が選択されます。

・椎間板摘出術(Discectomy)
・前方除圧固定術(ACDF)
・内視鏡下ヘルニア摘出術(MED、PELDなど)

特に内視鏡手術は低侵襲であり、近年注目を集めています。ただし、症例選択が重要であり、画像所見と臨床症状の一致を慎重に評価する必要があります。

患者に応じた治療戦略の重要性

椎間板ヘルニアの治療は、部位や病態の違いだけでなく、患者の年齢、職業、生活背景、希望に応じた個別化が重要です。たとえば高齢者であれば骨粗鬆症や脊柱管狭窄症の併存、若年者ではスポーツ歴や就労状況が考慮されるべきです。
また、脊髄症状を伴う頚椎・胸椎椎間板ヘルニアでは、早期の外科的治療が予後を左右するため、慎重な判断が求められます。

おわりに

椎間板ヘルニアは、ありふれた疾患でありながら、適切な診断と治療戦略が求められる疾患でもあります。部位ごとの症状と治療法を正しく理解することで、患者のQOLを大きく改善することができます。今後もエビデンスに基づいた診療と、患者個別の状況に応じた治療選択が求められます。

参考文献

1. Fardon DF, et al. Lumbar disc nomenclature: version 2.0. Spine J. 2014.
2. Bartels RH, et al. Surgery for cervical radiculopathy. Cochrane Database Syst Rev. 2010.
3. Arce CA, et al. Herniated thoracic disks. Neurol Clin. 1985.
4. Weinstein JN, et al. Surgical vs nonoperative treatment for lumbar disk herniation. JAMA. 2006.
5. Peul WC, et al. Surgery versus prolonged conservative treatment for sciatica. N Engl J Med. 2007.

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