スポーツ外傷や転倒などの外力によって多くみられる「靭帯損傷」や「捻挫」は、日常診療や整形外科外来において頻繁に遭遇する外傷です。
これらの損傷は一見似ているように見えますが、病態や重症度、治療方針、リハビリの内容には明確な違いがあります。
本コラムでは、靭帯損傷と捻挫の違いを明確にし、それぞれの症状・治療・リハビリについてエビデンスに基づき解説します。
「捻挫」とは、関節に過度の外力が加わった際に、関節を構成する靭帯や関節包が部分的に損傷した状態を指します。
靭帯が完全に断裂していない軽度から中等度の損傷が多く、関節の不安定性は軽微な場合がほとんどです。
最も頻度が高いのは足関節捻挫で、特に外側靭帯(前距腓靭帯、踵腓靭帯など)の損傷が多く報告されています。
靭帯損傷は、靭帯の線維が部分的または完全に断裂した状態であり、捻挫よりも重度の損傷を含みます。
靭帯は関節の安定性を保つ重要な組織であり、その損傷は機能障害や慢性的な不安定性につながることがあります。
靭帯損傷の代表例としては、前十字靭帯(ACL)損傷、足関節の重度外側靭帯損傷、手関節のTFCC損傷などが挙げられます。
比較項目 | 捻挫 | 靭帯損傷 |
---|---|---|
病態 | 軽度〜中等度の靭帯伸張または部分断裂 | 部分断裂〜完全断裂 |
症状 | 疼痛、腫脹、可動域制限 | 強い痛み、腫脹、関節不安定性 |
画像所見 | 超音波やMRIで部分損傷を確認可能 | MRIで明確な断裂像、関節液貯留など |
治療方針 | 保存療法が基本 | 重度では手術を検討 |
リハビリ | 短期的 | 中〜長期的、競技復帰には慎重な評価が必要 |
・局所の圧痛
・腫脹(とくに外果周囲)
・可動域制限
・不安定感は軽度
前距腓靭帯損傷に伴う捻挫では、前方引き出しテスト(anterior drawer test)が参考になりますが、急性期は疼痛により評価困難なこともあります。
・激しい疼痛
・広範な腫脹、皮下出血
・関節不安定性(顕著)
・機能障害(例:歩行不能、運動制限)
MRIによる画像評価は診断に極めて有用であり、断裂部位や程度、関節内の合併損傷(半月板、骨挫傷など)を評価できます。
基本的には保存療法が適応され、「RICE処置(Rest, Ice, Compression, Elevation)」が初期治療の中心となります。中等度以上では一時的な固定(テーピング、ブレース)を併用し、疼痛や腫脹の軽減を図ります。
症状が改善した後は、可動域訓練やバランストレーニングを含むリハビリが推奨されます。
損傷の重症度により保存療法または手術療法が選択されます。
・保存療法:部分断裂や高齢者、競技レベルの低い例では非手術的管理も検討されます。
・手術療法:完全断裂や高活動レベルを求める若年者、関節不安定性が強い症例では、再建術が推奨されます。
前十字靭帯損傷の場合、骨端線が閉じている競技者では早期の再建術が推奨されることが多く、術後の再受傷防止プログラムも重要です。
リハビリテーションは、靭帯損傷・捻挫における機能回復の要であり、再発防止の観点からも極めて重要です。
・初期:浮腫軽減、疼痛緩和
・中期:関節可動域と筋力の回復
・後期:バランス訓練、スポーツ動作の再獲得
特に足関節捻挫では、固有感覚(プロプリオセプション)の再教育が予後を左右します。
手術後は、関節の安定性と可動域のバランスを取りながら、段階的に荷重や動作を進めていくことが求められます。
・ACL再建術後:約9〜12か月のリハビリ期間を経て競技復帰が可能とされています。過早な復帰は再断裂のリスクが高いため、機能的テストを用いた評価が推奨されます。
「捻挫」と「靭帯損傷」は類似した外傷のように思われがちですが、病態、症状、治療戦略、リハビリテーションの内容には明確な違いがあります。特に靭帯損傷は、診断の遅れが機能障害や再発リスクにつながるため、適切な評価と治療が求められます。
医療従事者として、外傷の初期評価からリハビリに至るまで、段階的かつエビデンスに基づいた対応を行うことが、患者の早期回復と再発防止につながります。
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