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高齢者の骨折がもたらす影響とは?
寝たきり・余命へのリスクと
医療者の役割

はじめに

日本は世界有数の高齢化社会を迎えており、高齢者の健康維持と生活の質(QOL)向上は喫緊の課題です。
その中で見過ごせないのが、骨折による身体機能の低下です。特に大腿骨近位部骨折(大腿骨頸部骨折や転子部骨折)は、高齢者の寝たきり余命の短縮に直結する重大な問題です。
本コラムでは、高齢者が抱える骨折のリスクとその影響、そして医療従事者が果たすべき役割について、最新のエビデンスをもとに解説いたします。

高齢者が骨折しやすい理由とは?

加齢に伴う身体的変化は、骨折のリスクを著しく高めます。主な要因は以下のとおりです。

・骨粗鬆症:高齢者では骨密度が低下し、特に女性は閉経後に急激に骨量が減少します。これにより、わずかな外力でも骨折が発生しやすくなります。
・筋力低下とバランス能力の低下:サルコペニア(加齢性筋減弱症)により筋力が低下し、転倒リスクが高まります。
・視力・聴力・認知機能の低下:障害物の認識が遅れたり、歩行時の注意力が低下したりすることで転倒につながります。

2021年の厚生労働省の調査によると、高齢者の転倒・骨折は介護が必要になる主な原因の第3位であり、介護保険サービス利用者の約12%が該当しています。

骨折による影響:寝たきり、入院、そして余命への影響

寝たきりとADL低下

高齢者が大腿骨近位部を骨折すると、早期の離床やリハビリが遅れる場合、長期的なADLの低下や寝たきり状態へと移行するリスクが高くなります。退院後も歩行が困難になり、在宅復帰率が下がることが多いのが現状です。

入院期間と再入院のリスク

日本整形外科学会の調査では、大腿骨近位部骨折の平均入院期間は約30日〜45日とされており、再入院率も高く、骨折後1年以内に転倒・再骨折する割合も高いことが報告されています。

余命への影響

骨折が高齢者の生命予後に与える影響も軽視できません。特に大腿骨近位部骨折は、1年以内の死亡率が15〜25%にのぼるとされており、骨折が高齢者の余命を縮める要因となることがエビデンスとして示されています。また、骨折後の死亡率は男性で高い傾向があり、特に術後合併症の管理が重要です。

骨折予防のために:多面的なアプローチ

骨折を未然に防ぐためには、単に転倒を防ぐだけでなく、以下のような多面的なアプローチが必要です。

1. 骨密度の評価と治療
骨粗鬆症のスクリーニングと適切な治療(ビスフォスフォネート製剤や活性型ビタミンD製剤など)は、骨折予防の第一歩です。FRAX®(骨折リスク評価ツール)を活用したリスク評価が推奨されています。

2. 筋力とバランス能力の向上
高齢者に対しては、下肢筋力とバランス能力を高める運動プログラムが有効です。Otago Exercise Programmeやバランストレーニングの介入によって転倒率が有意に低下した報告もあります。

3. 住環境の整備
段差の解消、滑り止めの設置、手すりの導入など、住環境の見直しも高齢者の転倒防止に重要です。福祉用具の活用も積極的に検討すべきでしょう。

4. 薬剤の見直し
多剤併用(ポリファーマシー)は転倒リスクを高めます。降圧薬や睡眠薬、抗精神病薬などは注意が必要であり、定期的な薬剤レビューが推奨されます。

骨折後の対応:リハビリと医療従事者の役割

早期手術と離床の重要性

骨折後の早期手術は、合併症の予防と機能回復を促進します。手術から48時間以内に実施された患者は、合併症発生率が低く、死亡率も有意に減少したという報告があります。

チーム医療によるリハビリ介入

急性期から回復期、生活期までを見据えたシームレスなリハビリテーションが重要と言われています。理学療法士、作業療法士、看護師、管理栄養士、薬剤師、ソーシャルワーカーといった多職種による連携が鍵を握ります。
特に高齢者においては、身体機能の改善だけでなく、心理的サポートや社会参加の支援も重要です。リハビリ継続によって再骨折を防ぎ、余命の延伸にもつながることが期待されます。

まとめ:高齢者の骨折を防ぎ、人生の質を守るために

高齢者にとっての骨折は、単なる外傷ではなく、寝たきりや余命短縮に直結する深刻な問題です。医療従事者は、予防・早期対応・リハビリテーションの各段階で専門的介入を行い、高齢者のQOLを守る使命を担っています。
科学的根拠に基づいた介入を積み重ねることで、高齢者が安全かつ自立した生活を続けられる社会の実現に寄与することができるでしょう。

引用・参考文献

1. 厚生労働省(2021)「令和3年 国民生活基礎調査」
2. 日本整形外科学会. 「大腿骨近位部骨折に関する調査報告」
3. Panula J, et al. “Mortality and cause of death in hip fracture patients aged 65 or older.” BMC Musculoskeletal Disorders. 2011.
4. Sherrington C, et al. “Exercise to prevent falls in older adults: an updated systematic review and meta-analysis.” Br J Sports Med. 2017.
5. Moja L, et al. “Timing Matters in Hip Fracture Surgery: A Meta-Analysis of the Effects of Delay.” CMAJ, 2012.

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