褥瘡(じょくそう)は長期臥床や活動制限のある患者に多く発生し、治癒までに時間を要することが少なくありません。特に高齢者や重度の疾患を抱える患者では難治性となりやすく、医療従事者にとって予防と治療は重要な課題です。近年、創傷治癒を促進する補助療法として「電気刺激療法(Electrical Stimulation Therapy: EST)」が注目されており、日本褥瘡学会のガイドラインにおいても推奨されつつあります。本コラムでは、褥瘡に対する電気刺激療法の概要とエビデンス、新しい治療法であるベルト電極型B-SESについて解説します。
褥瘡は持続的な圧迫やずれによって血流が阻害され、皮膚や皮下組織が壊死に至る病態です。要介護高齢者、脊髄損傷患者、ICU入室患者などで高い発生率を示し、QOLの低下や感染リスクの増加、医療コストの上昇につながります。予防の基本は体位変換、圧分散寝具、皮膚ケアなどですが、難治性褥瘡に対しては補助療法が求められます。その一つが電気刺激療法です。
電気刺激療法は、皮膚や組織に微弱な電流を流すことで血流改善や創傷治癒促進を図る方法です。主な作用は以下の通りです。
・血流増加:電気刺激により血管拡張や毛細血管循環が促され、酸素供給と栄養供給が改善します。
・細胞活性化:線維芽細胞や角化細胞の活性化が報告され、肉芽形成を促進します。
・抗菌作用の補助:電流による細菌の増殖抑制効果も一部報告されています。
このような作用により、電気刺激は難治性褥瘡に対して有効な補助療法として期待されています。
従来は褥瘡部位に創部直接電極や創周囲電極を配置し、直流やパルス電流を流す方法が一般的でした。臨床試験でも以下のような効果が報告されています。
・治癒率の向上:通常の創傷ケアと比較して治癒期間が短縮した報告があります。
・面積縮小効果:電気刺激を併用することで褥瘡サイズが有意に縮小したとの結果が得られています。
しかし、従来法には以下の課題がありました。
・電極交換に伴う感染リスク
・創部周囲の皮膚トラブル
・電極貼付の煩雑さ
これらの課題を解決する新しい方法として、ベルト電極を使用したB-SES(Belt electrode Skeletal muscle Electrical Stimulation)が注目されています。
B-SESは、ベルト型電極を腰・膝上・足首に装着し、広範囲の骨格筋を電気刺激する方法です。従来の創部直接刺激とは異なり、筋収縮を介して血流改善や代謝促進を図る点が特徴です。
・創部に直接触れないため感染リスクが少ない
・広範囲の筋収縮による全身的な循環改善
・下肢筋萎縮の予防(廃用症候群対策)にも有効
最近の学会発表等では、B-SESが下肢筋力維持と末梢循環改善に寄与し、褥瘡の治癒過程を促進する可能性が報告されています。また、透析患者や長期臥床患者など運動制限のある症例でも安全に使用できる点が評価されています。
日本褥瘡学会のガイドラインでは、褥瘡に対する電気刺激療法は「一定の効果が期待できる補助療法」として位置づけられています。ただし「エビデンスの蓄積はまだ限定的であり、症例選択と適切な管理が必要」とされています。今後、B-SESを含めた新しい治療法に関するエビデンスが蓄積されることで、標準治療の一部としての位置づけが期待されます。
褥瘡治療において電気刺激は、従来法の限界を補う補助療法として注目されています。創部直接刺激による治療効果は報告されていますが、電極管理や感染リスクが課題でした。その課題を克服する新しい方法として、B-SESを使用し、全身的な循環改善や筋萎縮予防といった付加的効果も期待されています。今後の研究と臨床応用の広がりにより、褥瘡治療のスタンダードに近づいていく可能性があります。
1. Polak, A., Franek, A., Taradaj, J. (2014). High-voltage pulsed current electrical stimulation in wound treatment. Advances in Wound Care, 3(2), 104–117.
https://doi.org/10.1089/wound.2013.0445
2. Houghton, P. E., Kincaid, C. B., Lovell, M., et al. (2003). Effect of electrical stimulation on chronic leg ulcer size and appearance. Physical Therapy, 83(1), 17–28.
https://doi.org/10.1093/ptj/83.1.17

