リハビリテーションは、疾患や外傷によって低下した身体機能・生活機能の回復を目指す医療行為のひとつであり、急性期から維持期に至るまで、幅広い領域で重要な役割を果たしています。その中でも「理学療法」は、リハビリの中心的な手法として、多くの医療現場で導入されています。
本コラムでは、リハビリの主要な種類を整理したうえで、理学療法とは何か、またその目的・方法・エビデンスについて解説します。医師や理学療法士の方々が臨床現場での理解と実践に活かせるよう、最新の知見を踏まえてご紹介します。
リハビリテーションには、対象となる障害や機能、治療の目的によってさまざまな種類があります。以下に主なリハビリの種類を紹介します。
1. 理学療法(Physical Therapy)
運動療法や物理療法を中心に、関節可動域の維持・改善、筋力の増強、歩行や動作の自立を目指します。理学療法士(PT)が中心となって提供されます。
2. 作業療法(Occupational Therapy)
日常生活動作(ADL)の獲得や社会復帰を目的とした訓練を行います。作業療法士(OT)が対象者に合わせた活動を指導します。
3. 言語聴覚療法(Speech Therapy)
言語障害、嚥下障害、発声障害などに対するリハビリで、言語聴覚士(ST)が担当します。
4. 呼吸リハビリテーション
COPDなどの慢性呼吸器疾患に対して行われ、運動療法と呼吸訓練、栄養指導などを組み合わせて行われます。
5. 心臓リハビリテーション
心筋梗塞や心不全後の患者に対し、再発予防と生活機能の改善を目的として実施されます。
理学療法は、身体に直接的に働きかける「物理的手段」を用いたリハビリテーションの一形態です。主な対象は運動器・神経系・呼吸器・循環器・高齢者など多岐にわたり、入院から在宅に至るさまざまな環境で実施されています。
理学療法の主なアプローチには以下のような方法があります。
1. 運動療法
身体運動を通じて、関節可動域(ROM)の維持や改善、筋力の強化、バランス能力の向上などを図ります。リハビリ初期では他動運動や関節モビライゼーションを行い、徐々に自動運動や歩行訓練へと進めます。
2. 物理療法
温熱、電気刺激、超音波、牽引、寒冷などの物理的手段を用いて、疼痛の緩和や循環改善、筋緊張の軽減を目指します。特に慢性痛患者への電気刺激療法(TENS)は効果があると報告されています。
理学療法の効果については、世界中で数多くの臨床研究が行われています。その中から代表的なエビデンスをいくつか紹介します。
● 筋力増強とADLの改善
高齢者に対する筋力トレーニングは、転倒リスクの軽減とADL能力の向上に有効であるとされています。特に下肢筋力の強化は歩行能力の改善に直結します。
● 脳卒中後の理学療法
脳卒中患者に対する早期理学療法は、機能的回復を促進し、再入院リスクを減少させると報告されています。また、タスク志向型の訓練は、上肢機能の回復において有効であることが示されています。
● 慢性腰痛に対する運動療法
慢性腰痛に対しては、運動療法が薬物療法よりも持続的な改善をもたらす可能性があるとするメタ分析も存在します。理学療法士による個別プログラムの提供が鍵とされています。
理学療法は、病院・クリニック・訪問リハビリ・介護施設など、あらゆる医療・福祉領域で活用されています。急性期では早期離床を、回復期では自立支援を、維持期ではQOLの維持や再発予防を目的とした介入が行われます。
また、リスク管理や多職種連携が必要な患者に対しても、理学療法士の専門的な判断が求められます。近年ではAIやウェアラブルデバイスとの連携によるリハビリ支援も進んでおり、理学療法の役割はますます拡大しています。
リハビリテーションは、多くの専門職によるチーム医療で成り立っていますが、その中核を担うのが理学療法です。理学療法は、運動機能の回復だけでなく、患者の自立支援や社会復帰に大きな貢献を果たしています。
本コラムでは、リハビリの種類を概観したうえで、理学療法の基本とエビデンスに基づいた効果をご紹介しました。今後の臨床や教育、研究活動の一助となれば幸いです。
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