慢性的な痛み、すなわち慢性疼痛は多くの患者さんが抱える深刻な問題であり、生活の質を著しく低下させる要因となっています。
慢性疼痛を患う患者さんは、動くと痛みがあるからと動かなくなってしまう傾向が強く、その結果、筋力低下や関節の拘縮、社会的な孤立など二次的な問題を引き起こすことが多いです。
医療現場においては、疼痛の管理に加え、患者さんの機能改善や社会復帰を目指した包括的な支援が求められています。
近年、慢性疼痛に対して運動療法が有効であるとのエビデンスが増えており、医療従事者は適切な方法と注意点を理解しながら、患者さんの指導にあたることが重要です。
本コラムでは、慢性疼痛に対する運動療法の具体的な方法、効果、そして医療従事者が留意すべきポイントについて、科学的根拠に基づき解説します。
慢性疼痛のメカニズム
慢性疼痛は、炎症や組織損傷が治癒した後も持続する痛みで、神経系の感作や心理的要因が複雑に絡み合うことが特徴です。
患者さんは痛みによる運動回避行動を取りやすく、結果として筋力低下や関節拘縮、社会的孤立が進むことがあります。
運動療法の役割
運動療法は、筋力や柔軟性の向上のみならず、神経系の感作緩和、心理的ストレスの軽減に効果があると報告されています。
適切な運動を継続することで、疼痛の軽減や機能改善が期待できるため、慢性疼痛管理における重要な柱の一つです。
1. 有酸素運動
ウォーキングや軽いジョギング、サイクリングなどの有酸素運動は、痛みの感覚を抑制し、全身の血流改善やストレス軽減に寄与します。
週に3~5回、20~30分程度の持続的な実施が推奨されています。
2. 筋力トレーニング
特に疼痛が起きている部位の周辺筋群の筋力強化は、関節の安定性向上や動作時の負担軽減に役立ちます。
低負荷での筋トレを段階的に進め、疼痛の悪化がない範囲で実施することが重要です。
3. ストレッチング・柔軟運動
筋肉の柔軟性を保つことで、動作時の不快感を軽減し、疼痛の悪循環を断ち切ります。
特に、長時間の座位や同じ姿勢による筋緊張の緩和に効果的です。
患者ごとの疼痛の程度や状態を正確に把握する
疼痛の強さや種類、併存疾患などを詳細に評価し、無理のないプログラムを設計することが大切です。
運動中の疼痛悪化に注意する
疼痛が強まる場合は運動の種類や強度の見直しが必要です。痛みの変化を患者から聞き取り、適宜調整しましょう。
心理的支援の重要性
慢性疼痛は心理的ストレスや抑うつを伴うことが多いため、心理面のケアや動機付けも同時に行うことが効果を高めます。
継続性を促す指導
短期間で効果が出にくいこともあるため、患者が運動を継続しやすい環境作りや目標設定支援が必要です。
慢性疼痛に対する運動療法は、適切な方法と注意点を踏まえて実施すれば、疼痛緩和や生活機能の改善に大きな効果をもたらします。
医療従事者は科学的根拠に基づいた指導を行い、患者さんが安全かつ継続的に運動できるようサポートしていくことが求められています。