「朝起きたら指が曲がったまま戻らない」「指を伸ばすとカクンと音がする」――そんな症状がある方は、ばね指かもしれません。ばね指は、指の腱が引っかかって動きがスムーズでなくなる疾患です。手をよく使う人に多く見られますが、実は最近、水分不足との関連も注目されています。この記事では、ばね指の症状や原因、そして水分不足との関係性について、最新の研究やエビデンスを交えながらわかりやすく解説します。
ばね指(弾発指)は、指の腱が通るトンネル部分(腱鞘)に炎症や狭窄が生じ、腱の動きがスムーズにいかなくなる状態をいいます。腱は、指を曲げたり伸ばしたりするために必要な組織です。この腱が通る「腱鞘」と呼ばれる管の中で、腱の動きがスムーズに行われるよう潤滑されています。しかし、炎症が起こると腱と腱鞘の間でスムーズな動きができなくなり、指が引っかかったり、カクンと音を立てて動くようになったりします。
ばね指の主な原因には以下のようなものがあります。
・指の使いすぎ(オーバーユース)
・加齢による変性
・ホルモンバランスの変化(特に女性)
・糖尿病やリウマチなどの基礎疾患
・腱鞘の炎症や肥厚
そして、最近では「水分不足」もばね指の発症に関わる可能性があるとして注目されています。
腱や腱鞘の間には、潤滑のための滑液(関節液)が存在します。この滑液にはヒアルロン酸などの成分が含まれ、摩擦を軽減する働きがあります。水分が不足すると、体内の滑液の量や質が低下し、腱と腱鞘の滑りが悪くなるとされています。その結果、腱が引っかかりやすくなり、ばね指のような症状が起こりやすくなるのです。
▼ エビデンス:2021年に発表された文献では、腱や靱帯の滑走性において滑液の水分含有量が重要であると報告されています。水分の不足は、腱の柔軟性や滑走性に悪影響を及ぼし、損傷や炎症のリスクを高めるとされています。
水分は体の解毒や循環をスムーズに行うために不可欠です。水分不足は、血流の低下を引き起こし、組織への酸素や栄養の供給を妨げます。その結果、細胞の代謝が悪くなり、炎症を起こしやすくなります。
▼ エビデンス:ある研究では、脱水状態が慢性炎症マーカー(CRPやIL-6など)の上昇に関連していることが示されています。これは、関節や腱鞘にも当てはまり、慢性的な炎症による腱鞘炎がばね指の引き金になる可能性があります。
以下のような方は、気づかぬうちに水分不足になっているかもしれません。
・朝はコーヒーだけで済ませる
・日中はデスクワーク中心で、水をあまり飲まない
・運動をしているのに水分補給をしていない
・高齢者(加齢により喉の渇きを感じにくくなる)
日常生活でのこまめな水分補給が、実はばね指の予防にもつながるのです。
水分をしっかり摂ることで、腱や関節の潤滑性を保ち、炎症のリスクを減らすことができます。特に以下のタイミングでの水分摂取が推奨されます。
・起床後すぐのコップ1杯
・1時間に1回、100~150mlの補給
・運動前後での水分補給
目安としては、1日1.5~2リットルの水分摂取が理想です。
指をやさしく伸ばしたり、グーパー運動をすることで腱の動きをなめらかに保てます。朝晩のルーティンとして取り入れてみましょう。
手が冷えると血行が悪くなり、炎症や腫れが起きやすくなります。パソコンやスマホを長時間使う方は、休憩時に手を温めるようにしましょう。
ばね指の初期は、安静やアイシング、ストレッチなどの保存療法で改善することが多いです。しかし、痛みや引っかかりがひどくなると、ステロイド注射や手術療法(腱鞘切開術)が必要になることもあります。また、痛みが強いときには自己判断せずに、整形外科や手外科の専門医を受診するようにしましょう。
ばね指は、手や指をよく使う人にとって身近なトラブルですが、水分不足がその背景にあるとは意外かもしれません。指の腱や関節も、体の一部として潤いを必要としているのです。「最近指の動きがぎこちない」「朝、指がこわばる」といった症状がある方は、まずは日常の水分摂取や生活習慣を見直してみることをおすすめします。しっかり水を飲むことが、ばね指予防の第一歩になるかもしれません。
・Mahieu, E., et al. (2021). “Hydration and tendon mechanics: The role of water in collagen-based tissue function.” Journal of Biomechanics, 124, 110560.
・Kavouras, S. A., et al. (2019). “Hydration status and markers of inflammation, oxidative stress, and immune function: a review.” Nutrition Reviews, 77(3), 146–157.
・Uchiyama, S., et al. (2010). “Trigger finger: etiology, evaluation, and treatment.” Journal of Hand Surgery, 35(1), 122-126.

