医療の高度化に伴い、理学療法士・医師・看護師・作業療法士など多職種が連携するチーム医療は不可欠となっています。
しかし、その一方で「評価の解釈が人によって異なる」「情報共有が曖昧になりやすい」と感じた経験はないでしょうか。
特に歩行に関しては、「不安定」「ふらつきあり」といった主観的表現に頼る場面も多く、職種間で認識のズレが生じやすい領域です。
本コラムでは、こうした課題を解決する手段として、**客観的な歩行評価(歩行分析)**がチーム医療にもたらすメリットについて、エビデンスを踏まえながら解説します。
結論から述べます。
客観的な歩行評価は、チーム医療における情報共有の精度を高め、治療方針の統一とアウトカム向上に寄与します。
歩行分析は単なる評価手段ではなく、「職種間の共通理解をつくる基盤」となる点が重要です。
従来の歩行評価は視診や経験に依存するケースが多く、評価の再現性に課題があります。
実際、歩行評価は観察者の経験や背景に強く影響されるため、評価の主観性が高いことが指摘されています(※1)。
例えば
• 「歩行が安定している」
• 「支持性が低い」
といった表現は便利ですが、解釈は人によって異なります。
この曖昧さが、チーム医療におけるコミュニケーションロスを生みます。
客観的な歩行評価では、
• 歩行速度
• 歩幅
• 支持時間
• 関節角度
などの数値や指標で歩行を表現します。
これにより、
「歩行が悪い」ではなく「歩行速度0.7m/s、右立脚期の短縮あり」
といった具体的な情報共有が可能になります。
このような定量化された情報は、職種間の共通理解を促進する重要な要素です。
歩行分析は、単に状態を把握するだけでなく、適切な介入選択を支援する情報を提供します。
神経リハビリテーション領域では、歩行分析により
• 運動障害の原因の特定
• 個別化されたリハビリ戦略の立案
が可能になると報告されています(※2)。
つまり、医師は診断・治療方針の判断材料として、理学療法士は介入ターゲット設定として活用でき、
チーム全体で一貫した意思決定が実現します。
歩行分析は、そもそも多分野統合的(multidisciplinary)な概念として発展してきました。
近年では、
• バイオメカニクス
• 神経科学
• 工学(センサー・AI)
などを融合した評価が進んでおり、異なる専門領域の知識を結びつける役割を担っています(※3)。
この特徴は、チーム医療において大きな価値を持ちます。
例えば:
• 医師:病態理解
• PT:運動分析
• OT:動作・生活動作への応用
• 看護師:転倒リスク管理
といった視点を、歩行評価という共通軸で統合できるのです。
• 「少しふらつきあり」
→ 解釈の幅が広く、介入が統一されない
• 歩行速度0.6m/s
• 患側立脚時間の短縮
• 歩幅左右差あり
→
• PT:患側支持性向上のトレーニング
• 医師:筋緊張や中枢性要因の再評価
• 看護師:転倒リスクの具体的管理
このように、評価が具体化することでチーム全体のアクションが揃う点が重要です。
現代医療では、患者中心の医療(Patient-centered care)が重視されています。
その実現には、多職種間での正確な情報共有が不可欠です。
一方で、歩行は
• 身体機能
• 神経機能
• バランス
• 認知機能
などを統合した複合的な活動であり、単一職種で完結する評価ではありません。
だからこそ、
客観的歩行評価はチーム医療のハブ(中心)となる可能性を持つといえます。
本コラムのポイントを整理します。
• 歩行評価は主観的評価に偏ると情報共有に課題が生じる
• 客観的歩行評価により共通言語が形成される
• 臨床意思決定と多職種連携の質が向上する
歩行を「ただ観察するもの」から、
「チームで共有し活用するデータ」へと変えることが重要です。
その一歩として、日々の臨床において客観的な歩行評価を意識してみてください。
それは、チーム医療の質を一段引き上げる確かな手段となるはずです。
(※1)Present and future of gait assessment in clinical practice: Towards the application of novel trends and technologies, Hulleck AA, et al.
Frontiers in Medical Technology. 2022;4:901331.
https://doi.org/10.3389/fmedt.2022.901331
(※2)Gait Analysis in Neurorehabilitation: From Research to Clinical Practice, Bonanno M, et al.
Bioengineering. 2023;10(7):785.
https://doi.org/10.3390/bioengineering10070785
(※3)Advancing Gait Analysis: Integrating Multimodal Neuroimaging and Extended Reality Technologies, Gramigna V, et al.
Bioengineering. 2025;12(3):313.
https://doi.org/10.3390/bioengineering12030313
掲載日:2026/7/30

