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透析医療の質を左右する鍵:透析患者における栄養状態と運動療法の関係

1.透析患者における栄養障害の重要性

透析患者において「栄養状態」は予後を大きく左右する重要な要素です。慢性腎不全および透析治療に伴い、蛋白エネルギー消耗(PEW:Protein Energy Wasting)が高頻度で認められ、筋肉量の減少や身体機能低下を引き起こします。
実際に、透析患者における筋肉量減少は死亡率の上昇と関連しており、臨床的に極めて重要な問題とされています(※1)。

その背景には、以下のような複合的要因があります。

・食欲低下による栄養摂取不足
・透析によるアミノ酸・蛋白の喪失
・慢性炎症や代謝異常
・身体活動量の低下

特に透析中は異化(カタボリック)状態が亢進し、筋タンパク分解が促進されることが報告されており(※1)、単に栄養を補うだけでは十分ではない点が課題となっています。

2.透析と栄養・運動の相互関係

透析患者の身体機能や筋肉量の維持には、「栄養」と「運動」の両者を組み合わせたアプローチが不可欠です。
近年の研究では、運動療法単独では筋肉量減少を十分に抑制できない可能性が指摘されています。その理由として、透析中に行われる運動は異化が亢進した状態で実施されることが多く、十分な栄養補給が伴わない場合、筋タンパク合成が促進されにくいことが挙げられています(※2)。
一方で、栄養介入と運動療法を併用することで、筋肉量・筋力・身体機能の改善効果が高まることが報告されています(※3)。

このように、透析医療においては「栄養」と「運動」を切り離して考えるのではなく、相互作用を前提とした包括的な介入が重要です。

3.運動療法が栄養状態に与える影響

透析患者における運動療法は、単に筋力を向上させるだけでなく、栄養状態にも好影響を与える可能性があります。

システマティックレビューでは、運動療法により以下のような変化が報告されています。

・除脂肪体重(lean body mass)の増加
・身体組成の改善
・食欲や栄養摂取量の改善
(※3)

運動により筋タンパク合成が促進されることで、摂取した栄養が効率的に利用されるようになります。つまり、「運動」は栄養の利用効率を高める役割を担っているといえます。

さらに、適度な運動はインスリン感受性の改善や炎症の抑制にも寄与し、栄養代謝の改善につながる点も重要です。

4.栄養介入と運動療法の併用効果

透析患者に対する介入として、近年特に注目されているのが「栄養+運動」の併用療法です。

2025年のネットワークメタアナリシスでは、有酸素運動とレジスタンス運動の組み合わせに加え、蛋白質補給を併用することで、以下の改善が確認されています。

・筋力(握力)の向上
・歩行能力(6分間歩行距離)の改善
・筋肉量の増加
(※3)

また、蛋白補給単独でも筋肉量の増加に寄与することが示されていますが、運動と組み合わせることでより高い効果が期待できるとされています(※3)。
これは、運動によって筋肉が「同化(アナボリック)状態」になり、栄養が効率的に筋合成へ利用されるためです。
つまり、透析患者においては「運動後の栄養補給」まで含めた設計が重要となります。

5.透析クリニックにおける実践ポイント

5-1.透析中・透析後の栄養戦略

透析中は異化が亢進するため、アミノ酸や蛋白補給のタイミングが重要です。運動療法と組み合わせることで、筋タンパク合成を効率的に促進できます。

5-2.個別化された運動プログラム

透析患者は身体機能や栄養状態に個人差が大きいため、運動強度や頻度は個別に調整する必要があります。

5-3.多職種連携の強化

医師、管理栄養士、理学療法士が連携し、「栄養」と「運動」を統合的に管理する体制が求められます。

5-4.継続できる仕組みづくり

透析患者は身体機能や栄養状態の変動が大きいため、長期的かつ継続的な介入が必要です。日常生活の中で無理なく継続できる支援体制の構築が重要です。

6.今後の展望:透析医療における統合的アプローチ

今後の透析医療では、「透析」「栄養」「運動」を一体化した治療戦略が重要になります。
従来の透析医療は生命維持が主目的でしたが、現在はQOLや身体機能の維持・向上が重視されています。

その中で、栄養と運動の最適な組み合わせは、

・フレイル・サルコペニア予防
・入院・死亡リスクの低減
・患者満足度の向上

といった多面的な効果をもたらします。

透析クリニックにおいてこれらを実践することは、医療の質向上だけでなく、今後の標準治療の確立にもつながる重要な取り組みといえるでしょう。

参考文献(PubMed)

(※1)Muscle wasting in hemodialysis patients: new therapeutic strategies for resolving an old problem, Chun-Ting Chen,et al.
The Scientific World Journal. 2013 Dec 5:2013:643954.
https://doi.org/10.1155/2013/643954

(※2)Exercising to offset muscle mass loss in hemodialysis patients: The disconnect between intention and intervention, Colleen F McKenna,et al.
Seminars in Dialysis, 2019 Jul;32(4):379-385.
https://doi.org/10.1111/sdi.12805

(※3)Nutritional and exercise interventions for muscle status in hemodialysis patients: A systematic review and network meta-analysis, Liang Zhang,et al.
Clinical Nutrition, Volume 53 p35-48October 2025
https://doi.org/10.1016/j.clnu.2025.08.005

掲載日:2026/5/27

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