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歩行分析で見抜く|神経系?整形外科系?異常歩行の見分け方と評価ポイントの違い

はじめに

リハビリテーションの現場で歩行を観察していると、「歩き方に違和感はあるが、その原因が神経系によるものなのか、それとも整形外科系によるものなのか判断に迷う」という経験はないでしょうか。
歩行は筋力や関節可動域だけでなく、感覚機能、運動制御、認知機能など多くの要素が関与する複雑な運動です。そのため、同じような異常歩行に見えても、背景となる病態が異なるケースは少なくありません。
例えば、歩幅が小さく歩行速度が低下している患者であっても、パーキンソン病による運動制御障害が原因の場合もあれば、股関節痛による防御的な歩行戦略が原因の場合もあります。
適切なリハビリや運動療法を実施するためには、「どのような異常歩行が見られるか」だけでなく、「なぜその歩容になっているのか」を見極めることが重要です。
今回は、歩行分析の視点から、神経系と整形外科系の異常歩行の違い、そして評価のポイントについて整理して紹介します。

なぜ神経系と整形外科系を区別する必要があるのか

結論から言えば、原因が異なれば介入方法も大きく変わるからです。
例えば下肢の振り出しが悪い患者を見た場合、
 ・股関節痛による運動回避
 ・足関節の可動域制限
 ・脳卒中後の麻痺
 ・パーキンソン病による運動開始障害
など複数の可能性が考えられます。
同じ歩行障害に見えても、関節機能の問題なのか、神経系の運動制御障害なのかによって評価項目や運動療法のアプローチは大きく異なります。
そのため歩行分析では、「歩容の特徴」と「病態の特徴」の両方を結び付けて考える視点が求められます。

神経系の異常歩行の特徴

神経系疾患による異常歩行では、筋力低下そのものよりも運動制御の障害が大きく影響するケースが少なくありません。
代表的な対象疾患には、
 ・脳卒中
 ・パーキンソン病
 ・脊髄損傷
 ・多発性硬化症
 ・小脳失調
などがあります。

特徴①:歩行パターンの再現性が高い

神経系疾患では、中枢神経系の障害によって比較的一定の異常歩行パターンを示すことがあります。
例えば脳卒中では、
 ・分回し歩行
 ・膝伸展パターン
 ・足部クリアランス低下
などが繰り返し観察されます。
またパーキンソン病では、
 ・小刻み歩行
 ・すくみ足
 ・加速歩行
など特徴的な所見がみられます。
同じ歩容が何度も出現する場合は、神経系障害を疑うヒントになることがあります。

特徴②:複数関節に異常が及ぶ

整形外科系疾患では局所的な障害が中心であることが多い一方、神経系疾患では複数の関節や筋群に影響が及びます。
例えば脳卒中後患者では、
 ・骨盤後退
 ・股関節伸展不足
 ・膝屈曲不足
 ・足関節背屈不足
が同時に観察されることがあります。
これは個々の筋の問題ではなく、運動制御全体の障害として捉える必要があります。

特徴③:環境変化で歩容が変わる

神経系の異常歩行では、
 ・二重課題
 ・人混み
 ・段差
 ・注意分散
によって歩容が変化しやすい特徴があります。
近年の研究では、歩行は単なる移動運動ではなく認知機能とも深く関連していることが報告されています(※1)。
そのため歩行分析では、単純な平地歩行だけでなく、課題条件を変化させた観察も有用です。

整形外科系の異常歩行の特徴

整形外科系疾患の異常歩行は、疼痛や可動域制限、筋力低下など比較的局所的な問題が背景となることが多いです。
代表的な疾患として、
 ・変形性股関節症
 ・変形性膝関節症
 ・人工関節術後
 ・骨折後
 ・靱帯損傷後
などが挙げられます。

特徴①:痛みに関連した歩容が多い

整形外科系の異常歩行で最も頻繁にみられるのが疼痛回避です。
例えば変形性股関節症では、
 ・跛行
 ・トレンデレンブルグ歩行
 ・立脚時間短縮
が出現します。
この場合、筋力低下だけでなく痛みによる荷重回避戦略が大きく影響しています。

特徴②:可動域制限が歩容に直結する

整形外科領域では関節可動域制限が歩行へ直接影響します。
例えば、
股関節伸展制限
↓
歩幅低下
↓
歩行速度低下
という関係が成立します。
神経系疾患でみられるような複雑な協調運動障害とは異なり、原因と結果の関係が比較的明確なケースが多いのが特徴です。

特徴③:代償動作が局所的

整形外科系では障害部位を避けるための代償が中心になります。
例えば、
 ・膝痛による体幹側方傾斜
 ・股関節痛による歩幅短縮
 ・足関節背屈制限による早期踵離地
などです。
代償の目的が比較的わかりやすいため、歩行分析では疼痛部位や関節機能との関連を確認することが重要になります。

神経系と整形外科系を見分ける評価ポイント

① 疼痛の有無を確認する

まず確認すべきは痛みです。
神経系疾患でも疼痛は生じますが、整形外科系では歩容変化の主要因となることが少なくありません。
歩行時痛の有無や痛みのタイミングを把握することで評価の方向性が見えやすくなります。

② 歩容の一貫性を見る

毎回ほぼ同じ異常歩行が出現する場合は神経系疾患が疑われます。
一方、
 ・疲労
 ・痛み
 ・活動量
によって歩容が変化する場合は整形外科的要因が関与している可能性もあります。

③ 関節単位ではなく運動連鎖で観察する

歩行分析では足部だけ、膝だけを見るのではなく、
 ・骨盤
 ・体幹
 ・股関節
 ・膝関節
 ・足関節
を連続した運動として把握することが重要です。
神経系では連鎖全体が乱れやすく、整形外科系では局所的な異常が目立つ傾向があります。

歩行分析は「診断」ではなく「仮説づくり」

臨床では歩行分析によって病名を当てることを目的にしてしまうケースがあります。
しかし実際には、
「この歩容はなぜ起こっているのか」
という仮説を立てることこそが重要です。
Bonannoらは、歩行分析が神経リハビリテーションにおける個別化介入の質を高める可能性を報告しています(※2)。
歩行観察はゴールではありません。
歩容から病態を推定し、運動療法や生活指導へつなげることが本来の目的です。

リハビリに求められるこれからの視点

厚生労働省は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」において、身体活動と運動機能維持の重要性を示しています。
歩行能力は活動量や社会参加に直結する機能です。
そのため異常歩行を評価する際も、
 ・歩き方の改善
 ・転倒リスク軽減
 ・活動量向上
 ・外出機会増加
といった生活機能レベルへの影響を考える必要があります。
神経系と整形外科系の違いを理解することは、単なる鑑別能力の向上ではありません。
患者一人ひとりに最適なリハビリと運動療法を提供するための第一歩なのです。

まとめ

神経系と整形外科系の異常歩行は、一見似ていても背景にある病態や評価ポイントが大きく異なります。
神経系では運動制御障害や協調性低下、整形外科系では疼痛や可動域制限が歩容へ影響することが多くあります。
歩行分析では歩容を分類するだけでなく、その異常がなぜ生じているのかを考えることが重要です。
リハビリテーションの現場では、「歩き方を見る」のではなく、「歩き方から病態を推定する」という視点を持つことで、より質の高い評価と介入につながるでしょう。

参考文献

厚生労働省資料
厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/undou/index.html

(※1)Gait, Anat Mirelman, et al.
Handbook of Clinical Neurology. 2018;159:119-134.
https://doi.org/10.1016/B978-0-444-63916-5.00007-0

(※2)Gait Analysis in Neurorehabilitation: From Research to Clinical Practice, Mirjam Bonanno, et al.
Bioengineering. 2023;10(7):785.
https://doi.org/10.3390/bioengineering10070785

掲載日:2026/9/28

この記事の著者

コンテンツ制作チーム
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医療機器メーカーとして培ってきた経験を大切にしながら、健康や身体に関する情報を発信しています。

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