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信州大学医学部附属病院

2026年8月取材

超急性期の「動けない時間」を、筋力低下予防の機会に変えるB-SES

集中治療部診療助教市山崇史先生

―診療で大切にしていることと、導入前の課題

 私は2006年に信州大学を卒業し、初期研修を終えた後、呼吸器内科へ入局しました。その後、6年ほど前から集中治療部に移り、診療しています。注力しているテーマは、必然的にARDSや急性呼吸不全です。ただ、私自身には慢性期から急性期まで一貫して患者さんを診たいという思いがありますので、外来では慢性期の患者さんにも関わっています。院内ではNSTやRSTにも参加し、呼吸だけでなく、栄養やリハビリも含めて幅広く関わっています。
 治療において最も大切にしているのは、患者さんが元の生活に戻れることと、より良いQOLを得られることです。現在所属している集中治療部では、手術後など、超急性期で動けない患者さんを多く診ています。基本的には立位や歩行ができるようになるとICUを離れるため、その後は私の手を離れることが多いのですが、不安のある患者さんには栄養サポートチームとして関わるなど、退院まで支援することもあります。
 B-SESを導入する以前は、リハビリスタッフが患者さんのもとへ行っても、苦しくて動けないため、その日のリハビリが中止になってしまうことがありました。結局、何もできないまま数日が過ぎてしまう。スタッフが足を運び、労力をかけてもリハビリができず、最終的に患者さんも動けるようにならない。その状況には大きなジレンマを感じていました。

重症患者さんの「運動できない時間」を、負担を抑えて補完するB-SES

リハビリテーション部主任理学療法士酒井康成先生

―専門分野とB-SESの実施対象

 私は地方の総合病院で3年間勤務した後、信州大学医学部附属病院のリハビリテーション部に勤務しています。信州大学では大学院に進学し、修士課程、博士課程を修了して現在に至ります。専門分野は呼吸器疾患と集中治療医学です。
 主に、MCSや人工呼吸器などの補助装置を使用している重症患者さん、重い呼吸困難を有する呼吸器疾患患者さん、敗血症などによって重度の血圧低下がみられる患者さんにB-SESを実施しています。救急分野では脊髄損傷なども対象となり、使用する患者さんは多岐にわたります。

動けない時間を減らす、ICUでのB-SES実施方法と今後の活用

―ICUでの実施方法と、B-SESの有用性

 ICUでは、毎朝のカンファレンスで患者さんのベッドを回りながら、その日のリハビリをどのように進めるかを検討しています。その中で、とても動かせそうにない患者さんには、禁忌がない限り、まずB-SESを実施する方針としています。ただ装着して終わりにするのではなく、ROM訓練も組み合わせながら実施し、リハビリとして関わっています。
 現状ではリハビリスタッフが主体となってB-SESを実施しています。ただ、本来は検査と検査の間など、少しでも時間があれば装着して筋肉を動かすことが理想です。そのためには看護師にも装着してもらいたいと考えていますが、看護師の業務にも余裕がないことや、機器の台数が十分ではないことなど、運用面にはまだ課題があります。
 B-SESは負荷を抑えながら筋収縮を促せるため、超急性期でも筋力低下を防ぐ手段として有用だと感じています。呼吸器疾患で息切れがあると、筋肉を使うほど身体を動かすことができません。そのような患者さんでも、筋収縮を促すことで、寝たきりの時間を減らし、運動耐容能にも良い影響が期待できると考えています。
 ICUには診療科も状態も重症度も異なる患者さんが入室します。そのため、当院だけで患者さんを一つの集団としてまとめ、B-SESによって何割良くなったのか、回復にどれだけ寄与したのかを数値で示すことは簡単ではありません。ただ、以前と比べて動ける患者さんが増えていることや、何もしない時間が減っていることは実感しています。何もしないことは良くない。その時間を防ぐ方法として、B-SESは非常に有用だと考えています。

―運動ができるようになった後も、プラスアルファで活用したい

 現在は、実際の荷重や運動が始まると、そちらを優先してB-SESを実施しなくなることがあります。ただ、私は運動とB-SESでは役割が異なると考えています。運動できない人にだけB-SESを実施するのではなく、運動できる人にもプラスアルファで活用し、運動をしていない時間や寝ている時間にB-SESを実施するという考え方があってよいと思います。
 当院でリハビリが介入できるのは1日1~2単位(20~40分)です。残りの運動できない時間をどれだけ短くできるか。そのための道具として、もっと活用できる余地があります。ただし、集中治療領域では歩かせればよいというものではありません。安全性や患者さんの負担に配慮し、栄養状態も含めて多職種で患者さん全体を診ながら進めることが重要です。
 当院では2台のEMSが稼働しています。ICUに常設して検査や処置の間の空き時間に使うなど、リハビリ介入時間だけに限らず活用することを考えると、台数と装着するマンパワーの両方が課題です。

院内のさまざまな「時間」に活用を広げ、回復の立ち上がりを支えるB-SES

リハビリテーション部副療法士長山本周平先生

―経歴とB-SES導入の経緯

 私は2007年に理学療法士となり、北里大学病院、聖マリアンナ医科大学病院を経て、信州大学医学部附属病院に赴任しました。北里大学病院に勤務していた時期に大学院へ進学して学位を取得しました。現在は、内部障害、呼吸・心臓リハビリテーション、集中治療領域をテーマに、研究と臨床に取り組んでいます。
 前任地の聖マリアンナ医科大学病院でもB-SESを実施していました。そのため、信州大学医学部附属病院へ赴任した際、すでに機器や使い方を知っており、市山先生に「何とか導入できないか」と相談したことが導入のきっかけです。新しい機器は、使い方が分からないため院内へ普及するまで時間がかかることがありますが、私に使用経験があったこともあり、B-SESは比較的早い段階で院内に浸透しました。
 当初は1台しかなかったため、取り合いになるほど活用されていました。導入当時のことは、今でもよく覚えています。

―集中治療から透析まで、看護師も使える体制づくりを

 現在は主に集中治療領域で、MCSを装着している患者さんや、人工呼吸器管理下で意識レベルが低く反応が乏しい患者さんなどに実施しています。また、機器を透析室へ持っていき、透析中の患者さんにもB-SESを実施しています。ICUに置く機器と、院内のさまざまな場所へ運んで使う機器を分けながら運用しています。
 セラピストだけが実施する状態では、どうしても活用に限界があります。特に土日は稼働率が下がりやすいため、看護師向けの資料を作成し、看護師にもB-SESを実施してもらえるよう説明を進めています。週末を含めて継続的に使える体制を整えたいと考えています。以前の機器はボタンが多く、初めてのスタッフには操作が分かりにくい面がありましたが、今の機器はタッチパネル式で直感的に操作できるため、スタッフへ展開しやすい点も利点です。

患者さんの負担を抑え、運動療法を補完する

―B-SES実施時の強度調整と患者さんの声

 重症患者さんでは、うまく意思疎通ができないことがあります。そのため、皮膚障害や熱傷などにも配慮し、筋収縮を誘発しすぎて痛みを生じさせないよう注意しています。筋萎縮の程度や筋肉の収縮具合を確認しながら、患者さんの状態に合わせて強度を調整します。
 経験を重ねると、筋萎縮の程度や筋肉の収縮の様子から、「この程度まで上げると痛みが出そうだ」と判断しやすくなります。患者さんの筋収縮を実際に確認しながら強度を調整することは、慣れれば特に難しいことではないと感じています。
 患者さんからよく聞くのは、通常の運動療法に比べて苦しさや苦痛が少ないという感想です。また、実施した後に身体を動かしやすくなった、立ち上がるときに動きやすくなった、といった声も聞いています。
 実施中は苦痛を伴いにくいため、「苦しくない」「全然痛みを感じない」と話される方がいます。中には「少し気持ちいい」と感じる患者さんもいます。

―運動療法を補完するB-SESの有用性と今後の展望

 実際にB-SESを実施して感じる大きなポイントは、運動療法の代替・補完手段になり得ることです。基本的に安全に実施でき、有害事象が少ない点も、臨床現場で活用しやすい理由だと考えています。
 一方、重症患者さんに対するEMSは多くの施設で行われるようになっていますが、どのくらいの時間、どの強度で実施することが最適なのかは、今後さらに検討が必要です。長時間、安全に、適切な強度で実施する方法を明らかにしていくことが課題だと考えています。
 今後は、起立性低血圧を有する脊髄損傷患者さんの離床時にB-SESを同時に実施し、起立性低血圧を予防しながら離床を進められないかと考えています。
 またICUでは、ECMO使用中の患者さんにB-SESを実施した際、下肢の骨格筋血流がどのように変化するのかを明らかにしていきたいと思っています。

印象的な症例から見えた、回復を支える可能性

―リハビリ後に毎日継続し、復職に至った症例

 集中治療領域でB-SESを実施する場合、患者さんの機能が低下していく中で導入するため、「良くする」というより、機能低下を防ぐ予防的な意味合いが強くなります。そのため、患者さん自身には効果が見えにくい面があります。一方、導入後に「寝ていた患者さんが意外と起きて立てる」と感じる場面があります。
 特に印象に残っているのは、MCSを経てVADという人工心臓を導入し、その後に心臓移植を受けた40代の患者さんです。ICU-AWによる廃用が非常に強く、歩くことはもちろん、立つことも、車椅子へ移乗することも難しく、本当に寝たきりに近い状態でした。少し立つ練習はできても疲労感が非常に強く、通常のリハビリは10分ほどで終わってしまい、続けることができない状態でした。
 そこで、通常のリハビリが終わった後に、座位で筋トレモードを約1時間実施することを毎日継続しました。実際に行うと相応の疲労感があるため、通常のリハビリの前ではなく、終わった後に追加しました。運動後には乳製品や補助栄養食品などでタンパク質を補い、栄養面も含めて取り組みました。患者さんは徐々に立ち上がれるようになり、立てるようになると歩行や活動量も広がっていき、最終的には復職されました。患者さんからも「あれが良かった」と言っていただき、回復の最初の立ち上がりを支える一助としてB-SESを活用できた症例だと感じています。
 当初、患者さんは、動けないこともあって「もう放っておいてほしい」と話すほど活動への意欲が低下していました。しかし、立ち上がれるようになる、車椅子でトイレへ行けるようになるなど、できることが少しずつ増えるにつれて、活動への意欲も変わっていきました。そこまで機能が落ちた状態から、最初の一歩をつくることは非常に大変です。その最初の立ち上がりに寄与した一つがB-SESだったと感じています。

―院内に広がるEMSの活用と、安全性への課題

 B-SESには、通常のリハビリにプラスして実施する方法と、集中治療や透析など、ほかに運動を行いにくい状況で活用する方法があると考えています。
 また、院内で看護師やほかの診療科の医師から、「この患者さんは何もできないけれど、EMSならできるのではないか」という声が上がるようになりました。EMSという言葉と選択肢が院内に浸透し、環境そのものが変化したことも、大きな有用性だと感じています。
 一方、集中治療領域には循環動態が不安定な患者さんが多く、何でも同じように実施してよいわけではありません。例えば、血小板値が非常に低い患者さんでは、ベルトの装着による皮膚損傷や内出血のリスクを考える必要があります。また、カテコラミンを高用量で使用し、血管収縮が強い状態で筋収縮を加えたときに、本当に筋血流を保てるのかという疑問もあります。刺激によって痛みが出て呼吸数が上がる患者さんもいるため、ARDSなど呼吸を休ませたい患者さんの治療へ影響しないか、現場で判断に迷う場面があります。
 対象となる患者さんや強度を慎重に選び、しっかり線引きする必要があります。今後は、集中治療領域で安全に実施するためのデータや知見がさらに蓄積されることを期待しています。

今後の研究と普及に向けた課題

―基礎研究と導入環境の整備に向けて

 筋萎縮の予防や筋肥大に加え、B-SESによって筋血流が増えるのか、筋肉を太くする成長因子などがどのように変化するのか、もう少し基礎的な部分も明らかになるとよいと考えています。集中治療の患者さんは1週間、あるいは1、2週間ほどでICUを離れることも多く、その短期間で何が良かったのかを判断するのは簡単ではありません。だからこそ、臨床で感じている変化を裏付ける指標が必要だと思います。
 臨床で感じている「少し離床しやすい」「意外と立てる」といった変化を裏付ける指標があれば、B-SESの治療意義をさらに説明しやすくなります。基礎と臨床を結ぶデータの蓄積が重要だと考えています。
 導入にあたっては、機器のコストも課題になります。現状は、患者さんのADLやQOLを高めたいという思いで導入している施設が多いと思いますが、医療機関では採算も考えなければなりません。
 加算などの診療報酬上の評価がつくのか、あるいは導入コストを抑えられるのか。いずれかによって普及が進めば、通常のリハビリ後にEMSを追加するという選択肢を、より多くの患者さんへ提供できると考えています。

この記事の著者

コンテンツ制作チーム
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