アキレス腱断裂はスポーツ選手に多く見られる外傷の一つであり、発生すると競技復帰までに長期間を要します。適切な治療とリハビリテーションを行うことで、機能回復と再断裂予防が可能となります。本記事では、アキレス腱断裂の原因、治療法、最新のリハビリテーションについて、エビデンスに基づき解説します。
アキレス腱は下腿三頭筋(腓腹筋とヒラメ筋)と踵骨をつなぐ強靭な腱であり、歩行やジャンプ、ダッシュ時の推進力を生み出す重要な役割を担っています。アキレス腱断裂は、そのアキレス腱が完全または部分的に切れる損傷であり、スポーツ活動中に発生しやすい障害の一つです。
アキレス腱断裂の主な原因は、以下のような要因が関与しています。
1. スポーツ活動
・バスケットボール、テニス、サッカーなどの急激なストップ&ダッシュを伴う競技で多く発生します。
・突然のジャンプやダッシュ時にアキレス腱に過度な負荷がかかることで断裂のリスクが高まります。
2. 加齢と腱の変性
・40代以降では腱のコラーゲン組織が劣化し、柔軟性が低下するため、断裂しやすくなります。
3. 過負荷トレーニング
・過度なランニングやジャンプ動作の繰り返しにより、アキレス腱が疲労し、微小損傷が蓄積することで断裂リスクが増加します。
4. 血流低下と回復遅延
・アキレス腱の中央部(ミッドポーション)は血流が乏しいため、損傷が修復されにくく、繰り返しの負荷で断裂に至ることがあります。
5. ステロイド・フルオロキノロン系抗菌薬の使用
・ステロイド注射やフルオロキノロン系抗菌薬(シプロフロキサシン、レボフロキサシン)は腱の脆弱性を高め、断裂リスクを増大させると報告されています。
アキレス腱断裂の治療法は、大きく分けて保存療法と手術療法の2つに分類されます。
1. 保存療法
・非手術的治療では、足関節を底屈位(つま先立ちの状態)で固定し、アキレス腱の自然治癒を促します。
・近年の研究では、保存療法と手術療法の機能回復に大きな差がないことが示唆されています。
・ただし、スポーツ復帰を目指す場合や若年層では、再断裂リスクを考慮し手術が選択されることが多いです。
2. 手術療法
・手術は、切れたアキレス腱を縫合して修復する方法です。
・従来の開放手術(オープンリペア)と、最小侵襲手術(経皮的縫合術)があり、前者は視認性が良好ですが瘢痕形成のリスクがあり、後者は低侵襲で感染リスクが低いとされています。
治療後のリハビリテーションは、再断裂予防と機能回復のために重要です。
1. 急性期(0~6週)
・固定と荷重制限: 手術後または保存療法後、ギプスや装具で足関節を固定。
・早期荷重開始: 近年の研究では、早期荷重(2週目以降)が機能回復を促進し、筋萎縮を防ぐと報告されています。
2. 回復期(6~12週)
・関節可動域(ROM)訓練: 足関節の柔軟性を取り戻すため、徐々に可動域を広げる。
・筋力トレーニング: 下腿三頭筋の再強化を目的とし、カーフレイズ(踵上げ運動)などを開始。
3. スポーツ復帰期(12週以降)
・プライオメトリックトレーニング: ジャンプ動作やダッシュを取り入れ、競技復帰の準備を行う。
・バランス・プロプリオセプション訓練: 足関節の安定性を高め、再受傷を防ぐ。
アキレス腱断裂はスポーツ選手にとって深刻な外傷ですが、適切な治療とリハビリテーションにより、高い確率で競技復帰が可能です。保存療法と手術療法の選択肢があり、近年では早期荷重や運動療法の重要性が強調されています。
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