廃用症候群とは、病気やけが、入院などをきっかけに活動量が低下し、身体や心の機能が全身的に衰える状態を指します。英語では「Disuse Syndrome(ディスユースシンドローム)」と呼ばれ、不使用性シンドロームと表現されることもあります。
特に高齢者では、短期間の安静でも筋力や持久力が低下しやすく、日常生活動作(ADL)の低下につながることがあります。健康な高齢者を対象とした研究では、10日間の安静によって下肢筋力や身体機能に影響がみられたことが報告されています。(※1)
廃用症候群は単なる筋力低下だけではありません。筋骨格系、循環器系、呼吸器系、消化器系、泌尿器系、精神・認知機能など多くの機能に影響するため、早期からの予防と対応が重要になります。
廃用症候群は、長期間の安静や活動量の低下によって生じる二次的な機能障害の総称です。
原因となる疾患そのものではなく、活動不足によって生じた結果として現れる点が特徴です。そのため、急性疾患や術後の患者だけでなく、高齢者や長期入院患者にもみられます。
不使用性シンドロームは廃用症候群の別名として使われることがあります。どちらも身体活動の減少によって生じる機能低下を表しており、基本的には同じ概念として理解して差し支えありません。
加齢に伴い筋肉量や身体機能は徐々に低下します。そこに安静や活動量低下が加わると、機能低下がさらに進みやすくなります。
また、一度低下したADLは回復に時間を要する場合があります。そのため、高齢者医療では「必要以上に安静にしない」という考え方が重視されています。
もっとも大きな要因の一つが長期臥床です。
ベッド上で過ごす時間が長くなると、筋肉への刺激が減少し、筋力や持久力の低下が進みます。また、立位や歩行の機会が減ることで循環機能や呼吸機能にも影響を及ぼします。
高齢者では加齢に伴う筋肉量減少であるサルコペニアがみられることがあります。
さらに食欲低下や十分な栄養摂取ができない状態が重なると、筋肉量の維持が難しくなります。高齢者の栄養管理に関するガイドラインでも、適切な栄養管理が身体機能維持に重要であることが示されています。(※2)
活動量の低下は身体面だけでなく精神面にも影響することがあります。
意欲の低下や認知機能の変化によって活動機会が減少し、それがさらに身体機能低下につながるという悪循環が生じる場合があります。
廃用症候群でみられる症状は多岐にわたります。
| 影響を受ける機能 | 主な症状・変化 |
|---|---|
| 筋骨格系 | 筋力低下、筋萎縮、関節拘縮 |
| 循環器系 | 起立時のふらつき、耐久力低下 |
| 呼吸器系 | 呼吸機能の低下 |
| 消化器系 | 食欲低下、便秘 |
| 泌尿器系 | 排尿機能の変化 |
| 精神・認知機能 | 意欲低下、認知機能の低下 |
| 生活機能 | ADL低下、活動範囲の縮小 |
廃用症候群が進行すると、歩行やトイレ動作、更衣、入浴などの日常生活動作に支障が生じる場合があります。
その結果、生活の自立度や生活の質(QOL)が低下しやすくなるため、早期からの介入が重要です。
近年は「治療が終わってからリハビリを始める」のではなく、病状に応じて早期から活動を促す考え方が重視されています。
可能な範囲で座る、立つ、歩く機会を確保することは、身体機能低下の予防に役立ちます。
ただし、離床の可否は患者の状態によって異なるため、医療チームによる評価が必要です。
関節を動かす機会が減ると関節拘縮につながることがあります。
可動域訓練は関節の柔軟性維持を目的として行われる代表的なリハビリテーションです。
筋力低下がみられる場合には、状態に応じた筋力トレーニングが検討されます。
高齢者の機能低下予防においては、レジスタンストレーニングなどの運動療法が有用な選択肢の一つとされています。(※3)
歩行や自転車運動などの有酸素運動は、身体活動量の維持や持久力低下への対応として取り入れられることがあります。
筋肉は栄養を材料として維持・再生されます。
そのため、十分な栄養摂取ができない状態では、運動療法を行っていても身体機能の回復が進みにくくなる場合があります。
リハビリテーションと栄養管理を組み合わせる考え方は、近年の臨床現場でも重視されています。
医師、管理栄養士、リハビリテーション専門職などが連携し、身体機能と栄養状態の両面から支援することが重要です。
廃用症候群への対応では、多職種による連携が欠かせません。
• 医師:全身状態の評価と治療方針の決定
• 看護師:日常生活支援や活動状況の把握
• 理学療法士:移動能力や身体機能への介入
• 作業療法士:生活動作の支援
• 管理栄養士:栄養状態の評価と栄養管理
患者一人ひとりの状態は異なるため、画一的な対応ではなく個別性のある支援が求められます。
「はいようしょうこうぐん」と読みます。
回復期間は年齢、基礎疾患、安静期間、栄養状態などによって異なります。個人差が大きいため、一律に期間を示すことはできません。
すべてを防げるわけではありませんが、適切な活動量の確保や栄養管理、早期リハビリテーションなどが機能低下の予防につながる可能性があります。
廃用症候群は、活動量の低下によって全身の機能が低下する状態です。筋力低下だけでなく、呼吸機能や循環機能、認知機能、ADLなどにも影響することがあります。
予防と対応では、早期離床、運動療法、栄養管理、多職種連携が重要です。患者ごとの状態に合わせながら、身体活動を維持するための取り組みを継続していくことが求められます。
(※1)Functional impact of 10 days of bed rest in healthy older adults, Patrick Kortebein, et al.
The Journals of Gerontology: Series A,2008;63(10):1076-81
https://doi.org/10.1093/gerona/63.10.1076
(※2)ESPEN guideline on clinical nutrition and hydration in geriatrics, Dorothee Volkert, et al.
Clinical Nutrition, 2019;38(1):10-47
https://doi.org/10.1016/j.clnu.2018.05.024
(※3)Physical strategies to prevent disuse-induced functional decline in the elderly, Pedro L Valenzuela, et al.
Ageing Research Reviews, 2018;47:80-88
https://doi.org/10.1016/j.arr.2018.07.003
掲載日:2025/10/22
更新日:2026/10/14
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