現場でしばしば問われるのが、「この患者さんには手術適応があるのか、まず保存療法をどこまで行うべきか」という判断です。特に整形外科領域では、手術に至る前段階での「保存療法」としての「リハビリ」が果たす役割が大きくなっています。本稿では、手術適応前に実施すべき保存療法としてのリハビリの意義と、医療従事者が臨床で考慮すべきポイントを、最新のエビデンスを交えて整理します。
「保存療法」とは、外科的介入を行う前段階で、薬物療法・物理療法・運動療法・生活指導など非侵襲的な介入を行い、症状の改善・手術回避・機能維持を図る治療戦略を指します。手術が必要な場合でも、それまでの期間に患者のコンディションを整えることで、予後改善や術後回復促進が期待できます。
その中でも「リハビリ」は、単に術後回復を目的とするものではなく、手術適応前に実施することで、患者の筋力・可動域・疼痛対策・心理的準備などを整え、「手術をしないで済む可能性」や「手術後の回復を加速させる準備段階」として極めて重要な役割を担っています。研究では、術前にリハビリを含めた保存療法を行うことで、手術後の機能改善・QOL改善につながるという報告があります(※1)
つまり、手術の有無にかかわらず、医療従事者は手術適応前の段階から保存療法としてのリハビリを設計・実践する視点を持つべきです。
2.1 整形外科手術を控えた「術前リハビリ(プレハビリ)」の有効性
最近の系統的レビュー・メタ解析では、整形外科手術を予定している患者に対して、術前のリハビリ(プレハビリテーション)が有効であるという中~高確度のエビデンスが報告されています。たとえば、2023年のある研究では、膝・股関節置換だけでなく腰椎手術においても、術前リハビリにより術前の機能・筋力・QOLが改善するというデータを示しています(※2)
具体的には、腰椎手術患者では「腰痛(back pain)」に対して高確度証拠により改善が示されており(WMD 8.20)という結果があります。
2.2 保存療法としてリハビリを行うメリット
・手術前の筋力・基礎体力を高めておくことで、術後回復期のスタートラインを上げられる。
・手術を回避できたり、手術までの期間に症状が改善したりする可能性がある。実際、非手術的アプローチを明確に定義して手術前に実施すべきであると報告されています。
・心理・社会的準備(動作恐怖・活動制限など)を術前段階で介入することで、術後のリスク(合併症・活動制限)を低減できる可能性があります。
2.3 手術回避または遅延という観点
保存療法としてリハビリを行うことで、最終的に手術を回避できるケースもあります。たとえば、2024年のある研究では、早期リハビリが従来の固定・安静と比べて、痛み・機能スコアが改善したという報告があります(※3)
このように、手術適応を検討する前段階で保存療法としてのリハビリを積極的に展開する意義があります。
3.1 患者評価と適応判断
手術が検討されている患者に対して、まずは「保存療法としてのリハビリ」が可能かどうかを評価します。具体的には、以下のような点をチェックします。
・症状の期間・進行性・重症度(神経症状・筋力低下・可動域制限など)
・手術適応の妥当性:明らかなレッドフラッグがないか、手術を急ぐ必要があるかどうか
・心理・社会的因子:活動制限・恐怖回避・職場・家庭環境・モチベーションなど
・現時点での機能レベル・筋力・可動域・日常動作・歩行・バランスなど
保存療法としてのリハビリは、手術を待つ間あるいは手術を回避できないか検討する段階で、患者状態を“整える”ために実施されます。医療従事者として、手術適応と並行してリハビリを検討する姿勢が求められます。
3.2 保存療法としてのリハビリ介入内容
保存療法としてのリハビリでは、単なる運動療法だけでなく、包括的アプローチが重要です。
・運動プログラム:筋力強化、体幹安定化、可動域改善、有酸素運動、動作練習を組み合わせる。術後を見据えて動作レベルを上げておく。
・教育・活動アドバイス:痛みがあっても活動を継続する意義、手術に至らない可能性を高めるためのセルフケア、生活動作の修正、姿勢・荷重・動線の整理。
・心理・行動支援:動作恐怖・活動低下を抑えるため、患者の信念や活動レベルを把握して介入。
・モニタリング・段階的負荷増加:手術が予定されている場合、術前リハビリを何週間程度・何頻度で行うか設計する。例えばレビューでは「4〜6週以上、週2回以上」が推奨されています。
・多職種連携:理学療法士・作業療法士・看護師・医師・場合によっては心理士・栄養士も含め、保存療法としてのリハビリを包括的に実施する体制が望ましいです。
3.3 手術適応前保存療法として注意すべき点
・手術が遅延して機能低下・除外因子が進むことのリスクがあるため、保存療法の限界を常に検討する。
・負荷過多・痛み増強には注意し、患者の疼痛反応を確認しながら進める。
・合併症リスクが高い患者では、保存療法だけでは手術が必要になる可能性が高いため、早期介入・術前リハビリ設計が鍵となる。
・患者のモチベーション・継続性が成果に大きく影響するため、段階設定・成功体験・フォローアップが重要です。
4.1 膝・股関節置換予定患者
膝・股関節の置換術を控えている患者では、術前に保存療法としてリハビリを実施することで、術前筋力・可動域・機能が改善し、術後回復がスムーズになるという報告があります(※2)
介入としては、筋力トレーニング(特に大腿四頭筋・股関節周囲筋)、可動域、歩行訓練、有酸素運動を4〜6週間以上かけて実施することが推奨されます。
4.2 腰椎手術予定(保存療法としてリハビリが可能な段階)
腰痛・腰椎手術を検討している患者では、術前に保存療法としてリハビリを実施することで腰痛自体の軽減・機能改善が報告されており(WMD 8.20)という高確度のデータがあります(※2)
具体的には、体幹安定化運動、歩行・体幹筋強化、柔軟性改善、そして動作再教育(荷重・姿勢)を含む保存療法としてのリハビリ設計が有効です。
保存療法としてのリハビリの重要性は、手術適応前という「介入の窓口」を拡げるという意味でも今後ますます注目されるでしょう。特に以下が今後のトレンドです:
・個別化プログラム:患者ごとの筋力低下タイプ・活動制限タイプ・心理要因タイプを見極めたプログラム設計。
・デジタル/リモート支援:手術待機中の患者を対象としたリモートリハビリ・セルフ管理支援の拡大。
・長期フォロー:保存療法としてのリハビリ後、手術を回避できたか・手術に至ったかを含めた成果追跡。
・経済的・社会的評価:保存療法による手術回避・機能維持によるコスト低減・QOL改善の検証。
手術を検討する患者に対して、保存療法としてのリハビリを「待機中」や「手術を回避できるかを探る段階」で設計・実践することが、患者の機能維持・術後回復促進・手術回避可能性上昇という観点から極めて有用です。医療従事者としては、患者評価・運動処方・教育・モニタリング・多職種連携という視点を持ち、「手術適応」だけが治療手段ではないという観点を臨床に取り入れることが求められます。
1. Rhon D I, Nonoperative Care Including Rehabilitation Should Be Considered and Clearly Defined Prior to Elective Orthopaedic Surgery to Maximize Optimal Outcomes. Arthrosc Sports Med Rehabil. 2022
https://doi.org/10.1016/j.asmr.2021.09.038
2. Punnoose A, Claydon Mueller LS, Weiss O et al. Prehabilitation for Patients Undergoing Orthopedic Surgery: A Systematic Review and Meta analysis. JAMA Netw Open. 2023;6(4):e238050.
https://doi.org/10.1001/jamanetworkopen.2023.8050
3. Ranieri R. Early rehabilitation vs. conventional immobilization in nonoperative treatment of proximal humeral fracture: a systematic review. Eur Rev Med Pharmacol Sci 2024
https://doi.org/10.26355/eurrev_202406_36382
掲載日:2026/1/23

