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術後回復を左右する鍵:人工股関節置換術後における早期離床と筋力回復の工夫

人工股関節置換術(total hip arthroplasty:THA)は、高齢者を中心にQOL改善を目的として広く行われる整形外科手術です。術後早期離床は、合併症予防や術後機能回復を促進する上で重要な介入ですが、具体的にどのように進めればよいかは医療現場でしばしば悩まれるテーマです。
本稿では「人工股関節置換術後の早期離床の意義と、筋力回復につなげるためのリハビリの工夫について」、最新のエビデンスを基に解説します。

早期離床の背景と臨床的意義

術後の身体機能低下

人工股関節置換術では、術創部からの疼痛や筋力低下が術後早期の身体機能低下を招きます。特に大腿四頭筋や臀筋群の筋力低下は、歩行や立位保持といった基本動作の回復を遅らせる要因になります。

早期離床とは何か

「早期離床」とは、術後できる限り速やかにベッド上座位、立位、歩行といった動作を開始することを指します。多くの ERAS(Enhanced Recovery After Surgery)プロトコルでは、術後1日以内の離床を目標とすることが推奨されています。
観察研究では、実際に大多数の人工股関節置換術患者が術後24時間以内に離床しており、術前の貧血の有無や ERAS項目の遵守度が早期離床に関連していたと報告されています(※1)。

早期離床の効果と筋力回復

下肢筋力の維持と機能向上

術後初期のリハビリとして、立位・歩行などの動作を早期に開始することで、筋への神経筋刺激を維持することができます。これにより、筋萎縮や筋力低下を最小限にとどめることが期待されます。
ランダム化比較試験では、術後初週に標準リハに加えて 積極的な動作練習および筋力訓練を組み込んだ介入群で、術後6日目時点の臀筋筋力や歩行距離、立位保持能力が高い傾向にあることが示されています(※2)。

早期離床と筋力回復を促進する実践の工夫

① 疼痛管理と患者教育

疼痛は離床・運動への最大の阻害因子です。術前から疼痛管理戦略を立て、術後も麻酔科や看護師と連携して適切な鎮痛を継続することで、患者の離床参加率を高めることができます。また、術前教育により「離床の目的と安全性」を説明することも不安軽減につながります。

② 段階的な運動導入

術後すぐの段階では、以下のように段階的に負荷を増すのが効果的です。
•術後0〜1日目:足関節ポンプ運動、深呼吸、ベッド上での軽い筋収縮
•術後1〜2日目:座位、立位保持、短距離歩行(歩行器や杖使用)
•術後3〜7日目:積極的な筋力練習(立位での股関節外転・屈曲、軽負荷レジスタンストレーニング)
これらの練習は、筋の神経筋系を刺激することで筋力回復を促進します。具体的には、立位での片脚保持やスクワット様動作なども段階的に導入していきます。

③ 多職種連携による継続的なサポート

理学療法士、医師、看護師、薬剤師、栄養士など多職種が連携して、患者の状態を継続的に評価しながら介入を調整することが重要です。特に離床進行に合わせてリスク(低血圧、めまい、疼痛悪化など)をモニタリングし、適切に対応することで離床安全性を高めます。

早期離床を成功させるポイント

手術侵襲と麻酔戦略

局所麻酔や前方アプローチなど、術中の侵襲を最小限にする工夫が、術後早期離床へのスムーズな移行に寄与することが報告されています(※1)。

術前機能とリハビリ目標設定

術前に歩行能力や筋力を評価し、患者ごとに現実的なリハビリ目標を設定することがモチベーション維持と早期離床促進につながります。患者の年齢、合併症、疼痛閾値を踏まえた個別最適化が大切です。

課題と今後の展望

人工股関節置換術後の最適な離床タイミングや運動強度についてはまだ議論の余地があります。今後は、患者個別の生物学的特徴や術式、疼痛制御方法に応じたパーソナライズされた運動処方の研究が進むと期待されます。

まとめ

人工股関節置換術後の早期離床は、筋力回復と機能改善を促進する重要な介入戦略です。疼痛管理や段階的運動導入、多職種連携を通じて、合併症を予防しながら安全に進めることが可能です。エビデンスに基づき患者ごとに最適な離床目標を設定し実践していくことが、術後QOL向上につながります。

参考文献

※1)Early mobilization after total hip or knee arthroplasty: a substudy of the POWER.2 study,Javier Ripoll S-Melchor, et al.Brazilian Journal of Anesthesiology, Volume 73, Issue 1,2023, Pages 54-71
https://doi.org/10.1016/j.bjane.2021.05.008
※2)Strength and mobilization training within the first week following total hip arthroplasty, Clarissa Matheis, et al.Journal of Bodywork and Movement Therapies, Volume 22, Issue 2p519-527
https://doi.org/10.1016/j.jbmt.2017.06.012

掲載日:2026/3/3

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